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期間限定オフの小説最終話用ブログ(2008年7月より運営)
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ラスト2! だと思います予定が狂わなければ。
あとでまとめるときにちょっと変更したりするかもしれませんが、
話の筋はこのままでございます。
因みに今回も2つ大きな区切りがくっついております。

補足・後半の区切りの内容が曖昧でごめんなさい、でも曖昧にしたかったんです…。


 *
 
 
 
 
ある村の教会の中で、ハノウは長椅子に腰掛けてステンドグラスの煌きを見つめていた。
この煌きを、自分の何倍もの時間ビロウは見てきたのだろう。
自分にしてはつまらないことを考えている、とハノウは思う。

 
「ハノ、珍しくぼんやりしているね」
 
 
聖堂の入り口から入ってきたビロウに、ハノウは溜め息を一つしてから応えた。

 
「アナタの相手をしていたら、ぼんやりもしたくなりますよ」
 
「そうか、ここ最近はハノに沢山無理をさせてしまったからね……。
でも何も、わたしの行くところ全てに付き添わなくてもよかったのに」

 
ハノはエイエン家の中でも熱心な研究家だよ、とビロウは笑った。
ビロウの皮肉には特に反応もせず、ハノウは椅子から腰を上げた。

 
「で? 
また『セイサクシャ』探しに行くんですか?」

 

深緑の上等なチャイナ服に身を包んだビロウをハノウは眺めた。
出かける時と女性に会う時はビロウはしっかりとお洒落をする。
ヒガンに会い交渉に失敗したあの日以来、ビロウは外出を繰り返していた。
ハノウの台詞通り、ビロウはもう一度ヒガンに会おうとしていたのだ。
ハノウが付き添うのはビロウを観察する研究者としての使命もあるし、『セイサクシャ』という不思議な存在にも研究者魂が疼くからだ。
しかし、それ以上に強い理由をハノウは薄々気付いていた。
ビロウはまたいつ眠ってしまうか、倒れてしまうのか、とても危なっかしい。研究者としてではなく、人として、玄孫(やしゃご)として心配している自分がいる。
「いや、今日は出かけない。
そんなことよりハノ、これを見てくれ!」

 
ハノウの元に歩み、ビロウは一枚の瑠璃色の封筒を手渡した。
ビロウとハノウの名前が明朝体の白字で印字されている。
差出人の名前は封筒の色から想像はついていたが、中の手紙を開くと、やはりその人物で合っていた。

 
「ミス・スズランから招待状!! 
女性からのお誘いは実に何十年ぶりだろうね。
わたし個人宛だったらもっと嬉しかったのだが、贅沢は言わないものだ」
 
「ワタシまで招待されているとは……」

 
ハノウは後ろめたい思いがした。
というのも、スズランの持つトレーラーハウスのタイヤをパンクさせた件について、あれから一ヶ月以上経つが未だに白状していなかったからだ。
複雑な胸中で、ハノウは手紙の文面を目で追った。

 
『拝啓 錦秋の候、皆様ますますご清栄のことと思います。
この招待状は『セイサクシャ』絡みの事件と、私が失礼をしてしまった方々に送りました。
力を無くし、私は欲に溺れていたのだと改めて思いました。
権力を振りかざし、『欠ケモノ』を多くとらえ、その不思議な力を弊社を陰から支えるために使いたいと考えていました。
もう私と関わりたくない人もいるでしょう。
けれど、私はこの無礼を謝りたいのです。
謝って皆さんの傷跡は回復するとは思っていません。
私のことを恨んだままで結構です。
けれど、私の気持ちを少しでも受け入れて下さるならば、今月末に開催するお茶会にいらしては頂けませんか。
弊社自慢のお菓子、料理、お茶をもって手厚く歓迎いたします。』

 
細かい日時や地図を確認しているハノウに、ビロウは口を挟んだ。

 
「そういえば、カシくんは戻ってきたらしいね?」
 
「はい。
クスノ様から電話を受けまして……本当に良かったと思います。
クスノ様もとても嬉しそうでしたね」
 
「ミス・クスノは、それは喜んだだろうよ」

 
うん、と一人腕組みをしてビロウは考える。

 
「ということは、ミス・ナズナも気兼ねなくこのお茶会に行くだろうね」
 
「そういうことですか……」

 
ハノウは呆れて手紙を畳んだ。
封筒に戻してビロウに返そうとしながら、話しかける。

 
「ビロウは勿論行くのでしょう? 
ワタシのバイクで向かったとしても二日くらいはかかりますから、早めに支度してくれないと」
 
「とても行きたいのだがね、わたしはパスするよ」

 
差し出された封筒をビロウは手のひらを立てて断った。
意外な返事にハノウの細い目が開かれる。
女性からの誘いを断るなんて。
開眼したハノウに、ビロウは少し葛藤してから声を大にして言った。
 
 
「本当に行きたい! 
けれど、だ。
わたしは彼らに合わせる顔がない。
それから、ちょっとした用事があるのだよ」
 
「用事ですか? 
出かけるということなら、スズラン様には断りの手紙を出さないといけませんね」
 
「いや。
ハノ、きみは行ってくるべきだ。
言わなければいけないこともあるだろう?」

 
え、とハノウは焦る。
 
 
「それと、たまにはわたしに構わずお茶会を楽しんできたほうがいい。
用事というのも外出じゃないから安心したまえ」

 
にっと得意げに笑うビロウに、ハノウはどうすればいいものか悩んだ。
お茶会に参加したら、ビロウとは何日か離れることになる。
依存しているわけではない。
けれど、もしこの間に何かあったらと思うと……。

 
「しかし……」
 
「女性の誘いには快く乗るものだ。
今回は本当に本当に残念だ。
残念すぎる! 
わたしの人生の汚点だ!! 
だから、ハノだけでも参加してきて欲しいのだよ。
わたしが本当に行きたかったことも伝えておいてくれ……ああそうだ、わたしからのささやかなプレゼントも持っていってくれないかな? 
ミス・スズランには何がいいだろうか……物よりも彼女には花がいいだろうか……」

 
顎に手を添えてぶつぶつと考えるビロウに、ふう、とハノウは息を吐いた。
これは、行ってあげますか。

 
「留守中は安静にしていて下さいよ?」
 
「大丈夫だ、ハノがいない間も寝るか、ロッキングチェアーで本でも読んでるか、チーズケーキでも作ってみるか、オルガンでも弾いてみるかいつもと変わらないことしかしないからね。
……ああ大丈夫、ミス・ツバキや他の女性に会いに行ったりはしないからね?」

 
ハノウの疑う眼差しにビロウは決して安心できないような返事をした。
 
 
 
 
 *
 
 
 
 
聖堂の一番後方、扉の前を避けて左端にあるロッキングチェアー。
事件から暫く経ったある日、ふと旅の途中に出会ったそれを思い出して購入したものだ。
部屋の一室に置こうかというハノウの提案を却下して、このような場所に置いたのは、聖堂全体が見渡せる位置でゆっくりと揺れていたかったからだ。
ハノウにお茶会に行く直前に花屋に寄るように言いつけた後、ビロウはゆらゆらとその椅子に揺れていた。
聖堂の中はロッキングチェアーの軋む音だけが響いている。
ハノウはお茶会に行くにはまだ早かったが、ビロウの外出用のチャイナ服をクリーニングに出しに行ったり、色々な雑務があったため早く教会を出発した。
教会の中にはビロウ一人だけ。
一人の時間は何度も経験していたし珍しいものでもない。
けれど、とても久しぶりなように思えた。

 
祭壇の近くの扉がふわり、と開いた。
風のせいだろうかと、ビロウは背もたれに預けていた体重を起こす。
けれどそれは風であり、風ではなかった。
ロッキングチェアーから立ち上がり、教会に訪れたその客人の下へ、ビロウは階段を踏みしめて、ゆっくりと近づいていく。
ビロウの瞳と同じ深緑のチャイナ服の裾、そして一くくりにした髪の毛が、微かな風になびいていた。
 
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自己紹介:
某高校で文芸部に所属していました自称駄文クリエイター。今さっき命名(←)。オリキャラ好きーです。高校在学中に執筆していた「仮死にとらわれ」という作品の最終話をワケあって連載します、ネットサーフィンで辿り着いた方で1話から読みたいって方がいれば声かけて下さいませ。時々詩や日記や作品解説も。

※個人誌「仮死にとらわれ」は2008年度の作品です、年度の表記を怠ったのを今更ながら後悔;
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