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期間限定オフの小説最終話用ブログ(2008年7月より運営)
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長いです。
やっと最終話になったという感じがする…
って、前回とか前々回に言いましたっけ(ぇ

誤字脱字矛盾があったらどうぞ指摘してやって下さい。

 
 
 
 
 
「スズシロさん…!?一体なんで」
 
「車がパンクされても、到着するのは早かったみたいですね」

 
え、とナズナはわけが分からないような顔でカシを見上げて、その後にスズシロの顔に視線をずらした。
スズシロも不思議そうな顔をしている。

 
「どうして貴方がそれを知っているのかしら」
 
「風の噂ですよ」

 
作り笑いを浮かべたカシに対し、そうですの、とスズシロは柔らかく笑みを返した。
真相はよく分からないまでも、ナズナに奇妙な悪寒が走る。
とりあえず、この場をやり過ごしたあとにカシに色々聞いてみようか。

 
「ねぇ、火事を起こしたのってお姉さん達なの…?」

 
リコリスはスズシロや、その後ろに背を向けてあぐらをかいたままの人物には目もくれず、遠くで燃え盛る橙の炎、というよりも灰になっていく花を見つめていた。
そんなリコリスに、スズシロは少し悲哀を帯びた表情を向ける。

 
「私は…いえ、確かに私達が起こしたものですわ。
こうでもしませんと、私の従者や町の人達は目を覚まさない と――そういえば、ボクやナズナさんはどうして平気なんですの?」

 
ボクじゃないっ、リコリスだよ!とむすっとした顔で訂正してみせるリコリスはともかく、不思議な目を向けられたナズナはきょとんとした。

 
「平気ってわけじゃなかったんですけど、あの、もしかしなくてもスズシロさんは、この町の現象が解明できてるんですか…?」
 
「ええ。
この土地に足を運ぶまではよく感じられなかったんですけれど、ね」

 
なら、と口を開きかけたナズナにスズシロは扇子の先をびっと突きつけて制す。
無論、穏やかな笑みは湛えたままで。

 
「お話はここまで。
もうすぐこちらにも火の手が来るでしょうし…私このような暑い場所は好きではありませんの。
続きが聞きたいというのであれば私達と一緒に来ることですわね――まぁ、用があるのはカシさんだけなんですけれども」

 
すいとカシと顔を合わせて、にこりとする。
むんとした暑さがじわじわと強くなっている気がした。
確かに、そう遠くない時間に此処の全域は焼け野原になってしまうのだろう……一昨日のように。
そして、花だけは何事も無かったように再び咲き誇るのだろうか。
暑さのせいか、スズシロと対峙している状況のせいか分からない汗が額を湿らせる。
長い三つ編みの内側にあるカシの横顔を見上げると、答えはとうに決まったような、落ち着いた表情をしていた。

 
「貴女の思惑が分からない以上、俺は貴女のところに行く気がしない」

 
この人を攫ったりSPをけしかけられたりしたので尚更ね、とカシは付け足した。
その言葉に、ナズナはふと辺りをきょろきょろと見渡してみる。

 
「あの時は……本当にすみませんでしたわ。
カシさんが珍しいタイプだったばかりにどうしても手に入れたくて。
それは今も変わらないから、今回は穏やかに話を進めることができたらと思っていたんですの。
今日はSPの方達は連れてきていませんわ」

 
最後の言葉は、特にナズナに向けたものだった。
ぴく、と東の方を向いて少し静止したナズナの視線に、百メートルくらい先だろうか、なだらかな赤い平面の上に白くて丸い何かががぶつかる。

 
「あれっ…?」
 
「どうかした?」
 
「今あっちの方に……あれ、気のせい……?」

 
いつの間にか、地面から生えていた(ように見えた)白い何かは引っ込んでいた。
首を傾げているナズナに、はぁ、とスズシロは残念そうな溜め息を漏らす。
扇子を一度にばっと開き、扇ぎながら初めて後ろを振り返った。
視線は、依然あぐらをかいたままの真っ黒い後姿に――髪先は赤く変色しているが――に注がれる。

 
「ウルシさん。もうそろそろよろしくて?」
 
「……アア、モウイイダロウな」

 
少し外人訛りがあるものの、滑らかで嬉しさを帯びた声色の口調。
気だるそうに立ち上がる彼を最後まで見ずに向き直り、スズシロはカシの緑色の瞳を見据えて口を開く。

 
「カシさん、私の思惑が分かればついて来て頂けるのかしら?」

 
スズシロは『監視ビト』だから思いを見透かすことができない。
長いまつげの奥に光る黒い双眼をじっと見つめて考えるカシは、ナズナがほんの少しやきもきしているとは知りもしなかった。

 
「内容によりますね」

 
そう…と暫く黙ったあとに、スズシロはそっと口を開く。

 
「私は、『欠ケモノ』の方々が人間らしい生活を営めるようにお手伝いをしたいと思っておりますの。
代価としてその方が持っている能力も研究したいところですけれども、無理にとは言いませんわ。
これは最初お会いした時に話しておくべきでしたわね」
 
「……、貴女の行動や今までの口ぶりから考えると、それはあまりにも綺麗すぎる理由じゃないか?」

 
ゼンマイからも似たような理由を聞いたけれど、と言うカシに、あの子からも聞いていたんですの、と微笑む。

 
「遠回りしないで言うと、嘘臭い」
 
「人を信じるのも大切ではなくて?
それでは、カシさんはこちらに来て下さらないと考えていいのかしら」
 
「例えそれが真実でも、俺は同じ答えですね」

 
カシなら手伝ってもらうよりも自分でなんとかしたいだろう、とナズナは考えた。
スズシロは残念そうな顔で、扇子をゆっくりと扇いだ。

 
「分かりましたわ。
それではこちらは引き下がる……というわけにはいきませんの。
仕方ないけれども、また実力行使させて頂きましてよ」
 
「え…スズシロさんと…」
 
「ウルシ、ダな。普通ノ女」

 
ざざ、と赤い花を踏み躙りながらウルシは青いサングラスの奥の左目を細めた。
初めて正面を見たナズナやカシ、多分リコリスもその容姿に威圧感のようなものを覚えた。
背が高いせいもあるだろう。

 
「BonJour」

 
女ニ餓鬼、憎キ『欠ケモノ』ゴ一行サンよ、とウルシは改めて挨拶をする。
口調といい青いサングラスのことも考えると、顔の四分の三が隠れてしまっているので全くいい印象は受けられない。
むっと睨み付けるリコリスには目もくれず、頼りなさそうに立ちすくむナズナをウルシは見下ろした。

 
「オ前ガ疑問ニ思ッタノハオレトオ嬢様ダケデ何ガ出来ルンダ、ッテコトダろ?
女ト子供ト『欠けもの』ダケナンテオレ一人デも十分ダケドな…コッチの『欠けもの』ノ話ダトオ前ノ連レモマアデキル奴ラシイが」

 
ソレト、オレハ今ソイツ見エテナインダヨな――視界ニハ入ッテルノカモシレナイガ、ソレヲ認識デキナイ……全ク、憎タラシイケド羨マシイ能力だ。
ウルシに陰が差したのは気のせいだろうか。
サングラスの奥の三白眼には確かにナズナとリコリス、そしてカシを映しているけれど。
カシはスズシロに対してしか話しかけていなかった。
それに、その会話中ウルシは背を向けて座っていたから、だから認識できないのだ。
羨ましい能力?
一時期、カシと初めて出会った頃、ナズナは誰に迷惑をかけるでもなく、自身を傷つけずに、うまいこと消えてしまえたらと思っていた。
記憶、そして存在感の欠如したカシに俄かには信じられないような驚き、憐れみを感じたと同時に何処かで羨ましいと思ったりもした。
『オカシ』にあやかろうと頑張って後を追ったのも懐かしい。
カシの口は多くを語らないけれど、自分の能力に、『欠ケモノ』であることに誇りはもっていないだろう。
〝神様〟に弄ばれたそれだけに注目されるのは、少なくとも自分の立場であったら、苦痛でしかない。

 
「羨ましい能力じゃない……。それに、カシは此処にいるんだから!」

 
右隣にいる、カシの腕の黒装束をぎゅっと掴んだ。
急な行動にカシは目を見開いて、ナズナの表情を窺い見るとウルシの視線に怯みながらも負けじとする意思が表れていた。

 
「……、偽善者が」

 
一瞬、殺意のような恐ろしい気が突き刺さった――と、思ったら、ウルシはつまらなさそうな顔をして更に前へ、スズシロの斜め後ろの位置に足を進める。

 
「すずしろニ見エルンダ、オレモソノウチ〝会ウ〟コトニナルンダロウさ。
ソノウチ、な」
 
「ウルシさん。
そろそろお話は謹んで下さるかしら。
余計な話までされたら困りましてよ」

 
オレハ困ラナイケドな、とサングラスを右手でくいっと押し付けるように上げたウルシの言葉を無視して、三人にゆったりと微笑んだ。
スズシロの目線がナズナの手を見つめたような気がして、慌ててカシの装束から手を離す。

 
「ナズナさんが先程見た人影は、おそらく私の仲間のゼンマイですわ」
 
「ゼンマイ?おもちゃのネジ?」
 
「そういう意味もあるけどねリっくん、ゼンマイさんは確か……カシの腕を縛った人だよね?」

 
聞くナズナに、カシはついっと顔を背けた。
背けたと同時に白い三つ編みもふわりとたなびいた。
そうですわ、とスズシロが後を続ける。

 
「あの子には『あの笛』を持たせてありますの。
カシさんならこれがどういう意味か分かりますわよね?」

 
ゼンマイの持つ銀色のホイッスル。
あの音は機械を狂わせ、人の意識を遠のかせることができる。
聞くまでもなくこれは脅しだ。
笛を吹かれたくなければついてこい、と。

 
「下手な動きをすればゼンマイにすぐ合図を送りましてよ……といっても、あの子の身体能力は筋力だけでなく視力もずば抜けていますから、私の合図なんて必要ないんでしょうけれど」
 
「スズシロさん達も、私達とこんな近くにいたら笛を吹かれたときに被害を受けるんじゃないですか?
それに私はその笛がどんな威力なのか分からないけど……ゼンマイさんの近くにいるわけじゃないんです。
カシは至近距離で聞いたから倒れたらしいけど……今は、そこまで強力な力は期待できないんじゃないですか?」

 
ナズナの問いに、スズシロは予想しえたようにくすりと微笑んだ。

 
「私には財力と大勢の仲間がいますの。
笛についてはかれこれ二年くらい研究に研究を重ねましたのよ。
完全に防ぐ手立てはありませんけれど、音を七十パーセントカットする特殊な耳栓は用意済み。
スピーカーも使い捨てになってしまいますけれどありますわ。
だから、貴女が疑問に思うことはなくってよ。
それと、リコリスくん、貴方が動こうとしても合図は送りますわよ?」

 
開いた扇子を半歩下がろうとしたリコリスに向けて、スズシロはにこりと笑う。

 
「私、貴方にも少し用がありますの」
 
「……ボクに?なんで?」

 
ええ、と答えたっきりスズシロは口を閉ざした。

 
炎の勢いは先よりも確実に強くなっている。
熱風が発汗を促すけれど、拭うことはせずに、三人はじっと考えた。
何か、何かいい方法はないか。
ふぅ、とスズシロは諦めたような顔つきで息を吐いた。

 
「流石に暑くなってきましたわね……。
ああ、仕方ないですわ、私の誘いに十秒以内に答えて下さらなかったら、強制的に笛の音で倒れて頂いてよろしくて?」

 
扇子をぱちんと閉じて。
では、一緒に来てくださるかしら?
端から焦がされていく野原の中で、十秒のカウントダウンが開始された。

 
――此処は従ってみたほうがいいか……?

 
九、八。

 
――ただ、彼に捕まったときほど簡単に脱出はできないだろうな。

 
七、六、五。

 
――リっくんやカシには…傷ついて欲しくない。

 
四。

 
――後で、この子や特にこの人を無事に帰せたら。

 
三。

 
「分かった」

 
カシの口から漏れた言葉に、スズシロの目がふふっと笑う。
ウルシは、カシの方へと視線を向けて口角を吊り上げた。
多分、カシが認識できたのだろう。

 
「そう答えざるしかありませんわよね。
さて、これで決まりましたわ。
では皆さん、私達の乗ってきたトレーラーハウスの場所まで案内しますわ……、勿論、お屋敷につくまでに変な動きをしようものなら」
 
「分かってる。
それからついていくと決めたんだ、話は沢山聞かせてもらう。
此処の火事もほったらかしにはしないでくれ。
…、貴女はスズシロという名前よりも、スズランという名前の方が合っている気がする」

 
少しだけいらつきながら、カシはそんな返答をした。
スズラン。
綺麗で可愛らしい花だけれども。

 
「……クハッ…アハハハハハハッ!!」

 
何事かとカシとナズナはいきなり笑い出した主を見た。
顔面を手で覆い、くつくつと嫌な笑いを浮かべている。

 
「見エタゼ『欠けもの』。
シカシ、『欠けもの』オ前……鋭い奴ナノか?
思ワズ笑ッチマッた」

 
にぃ、とウルシは氷のような瞳で、ある人物の鋭い目つきと対峙する。
もうその人物の微笑みは失せていた。

 
「ウルシさん…?
もうその口は開かなくてよろしくてよ?」
 
「悪カッタな。
モウコノ忌々シイ場所カラ出ナイト、な」

 
この二人、私達を捉えるために協力はしているけれど仲は全然よろしくないらしい、とナズナは、勿論他の二人も容易く感じた。

 
「マ、時間モ頃合ダシ、丁度イい」

 
ウルシの呟きには耳もかさず、スズシロは三人を案内しようと一歩踏み出したその時に。

 
バシュン、と風を切る音がこの場にいる全員の耳に届いた。
 
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どんどん加速しますね
こんばんは!昨年個人誌を買ってから、密かに通わせていただいてました。(旧)あゆいです。ご無沙汰しています。

好きなものは最後までとっておく派なので個人誌もずっと読むのを我慢していたのですが、
そろそろ完結とのことなので、数日かけてweb掲載最新話まで読ませていただきました(´∀`)
面白かったです、すっごく!
話が進むにつれ、明らかになるものが多いのに加えて、それぞれのキャラが少しずつ成長してるなあ、って思う感じが多々あって。展開もどんどん物騒になってきて(笑)これがどんなふうに繋がっていくんだろう、とわくわくを隠しきれません^^*

それでは、製作頑張ってくださいね!応援しています。

追伸。。
思い出したくない奴だ!と思ったら無視してくださいませ(^^;
碧結改め蜜丸 2009/08/16(Sun)23:40:34 編集
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柊葉
性別:
女性
自己紹介:
某高校で文芸部に所属していました自称駄文クリエイター。今さっき命名(←)。オリキャラ好きーです。高校在学中に執筆していた「仮死にとらわれ」という作品の最終話をワケあって連載します、ネットサーフィンで辿り着いた方で1話から読みたいって方がいれば声かけて下さいませ。時々詩や日記や作品解説も。

※個人誌「仮死にとらわれ」は2008年度の作品です、年度の表記を怠ったのを今更ながら後悔;
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