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期間限定オフの小説最終話用ブログ(2008年7月より運営)
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メインの区切り一つと小さな区切り分の今回です。
一応今回で野原でのやり取りは終了です、ああ長かったなぁ…随分長い間喋ってたもんだ…。
まあ、余計長かったと感じるのは、私の更新が遅いせいでもあるんですけどね;

 

 *
 
 
 
 
町の方から人々のざわめきが風に乗って届く。
この野原にももうじき色々な人がやってくるだろう。
火事は収まったとはいえ煙が立ち上っているし、何より、ツバキやリコリスのことをイチョウから聞きつけて、心配してやってくる関係者は絶対にいるだろうから。

 
「女性に手をあげてしまうなんて最低だね、わたしは」

 
ヒガンの右頬を叩いた手を見つめてから、哀れむように、ヒガンの顔を見つめた。

 
「でも我慢できなかった。
どうしてか分かるか?」

 
跪いて覗く顔に、ヒガンは目を逸らした。
細く白い手で、はたかれた頬を押さえる。

 
「きみは人間になりたいくせに人間を分かろうとしないからだ」

 
キッと睨みつける目に、ビロウはさらに話を続けた。

 
「自分の思い通りでないと気がすまない。
私利私欲にのまれる。
きみが嫌っている人間の悪い部分だが、きみもそれを持っている。
ある意味人間らしいが、きみには力がある
。実際に人も消してきたし、人間になりたいからってその人の人間らしい部分をとっていいことにはならない。
代わりに力を与えたからいい? 
その全ての力をきみは与えていない。
完全な交換こでない分、相当欲望にまみれている」

 
そういえば、カシに人の心を見透かす力があるのなら、交換ということを考えれば、ヒガンは人の心を読み取れないことになる。
ヒガンは力を上手く扱えないと言っていたが、意図して自分に力の欠片を残していたとしたら……。
思いのやり場が分からなくて、ナズナは地面の黒くなった草を握った。

 
「人は色んな種類がいるのを、きみは長い間見てきて知っただろうね。
人間になったところで、果たしてきみはそんな人達とやっていけるんだろうか?」

 
ヒガンの口がす、を紡ごうとしたところで、間発入れずにビロウは口を挟む。

 
「好きな人とだけやっていけばいい? 
それは無理だ。
……無理なのだよ。
けれどそこを超えたところに、多くの人と交わってこそ、人って素晴らしいものだと思えるようになる」
 
「わざわざわたしに説教をしにきたの?」

 
睨みつける黒目の光がわずかに揺らぐ。
ヒガンが何を思い聞いているのか――ヒガンの思念を読み取ろうとしても、分からない。
しかし、まだこの場所に留まっていることに、それだけはビロウは感謝した。

 
「それもある。
けれど、本題は違う」

 
一つは『監視ビト』と呼ばれる人のことだ。
ビロウは続ける。

 
「『欠ケモノ』を守るためにきみのおいた『監視ビト』。
それは『欠ケモノ』の姉、恋人、主人、そして母親だったりする。
きみは『監視ビト』を疎む傾向にあるが……本当は好きだったんだろう? 
自分が観察して好きになった人を、大切にしている人を」

 
『監視ビト』の多くは、『欠ケモノ』以上に、以前とは違う運命に酔いしれて変わってしまったけれど。

 
「わたしはきみが怖かった。
だからずっと、この町にも訪れることはなかった……きみに会ってしまいそうなこの町にね。
でもそれではいけないと思った。
密かに蔓延する力を絶たなくてはと思ったんだ。
けれど、もうそれもあと少しで終わるようだね……きみがあがいたところで、ほんの少しの延命にしかならない」

 
ビロウには何か見えているものがある。
焼け野原にいるほぼ全員が固唾をのんで見守る中、ハノウだけは心配そうにビロウの後ろ姿を見つめていた。

 
「全てが終わる前に、わたしはきみと話しておきたかった。
きみはそんな性格だが、やはり、人以上に人が好きなところや、可愛いところが、わたしには眩しかった」

 
今まで厳しく、真面目な表情をしていたビロウだったが、ここで初めて、ヒガンの前でそっと微笑んだ。
風で揺れる黒髪を耳にかけて、ヒガンは当初のような自信に満ちた声で言う。

 
「あと少しで終わる? 
そんなことにはならないわ。
わたしは『セイサクシャ』。
この世界にまだ留まっていられるように自身をも新しく作り上げる。
この場所からわたしの与えた能力をほとんど回収したし、カシから全てをもらったし、今のわたしは力に溢れているのよ?」
 
「カシくんのことだが」

 
ビロウは頭をぐっと下げた。

 
「……お願いだ。
返してくれないか……彼らの、彼女の元に」

 
ビロウの申し出に、ナズナは顔を上げる。
ちょうど、ヒガンと目が合った。
喋らないヒガンに、ビロウは頭を下げたまま言い続ける。

 
「カシくんの能力はいい。
カシくんという人間だけでも。
交換条件が必要というのなら、わたしをやる。
わたしは長く生きすぎたし、全ての根源でもあるから」



 
「「ビロウっ…!?」」



 
声の出ない者、思わず声をあげてしまった者達も気にせず、ビロウは懇願し続ける。

 
「ビっ…ビロウまでなんてこと言うのよ! 
馬鹿なこと言ってると思わないの!?」
 
「そうよ、馬鹿だわ。
大馬鹿者よ」
 
「え?」

 
苛立ったナズナに、意外な人物が、ヒガンが賛同する。

 
「昔から大嫌いだった。
今も大嫌いよ」

 
心なしか、ヒガンの顔は悲しそうに見えた。
ヒガンの瞳から小さな光が落ちたように見えたが、後に黒髪、着物、手、足からぽろぽろと淡く赤い光が零れて、ヒガンの姿が薄く消えていく。
ぱらぱらと崩れていく。
ビロウは顔を上げて焦って声を出した。

 
「ヒガン!!」
 
「カシは……わたしの力が有り余ったら、返してあげてもいいわ。
……期待しないことね」

 
その言葉を最後に、ヒガンは雲間から差し込む太陽の光に溶けた。
ぐしゃ、とビロウの拳が草原に振り下ろされた。

 
「すまない……すまなかった……」

 
その懺悔は野原にいる者達に対してか、もっと広い意味を指しているのか、それはビロウにしか分からない。
悔いたままのビロウを放ってはおけず、ナズナはよろめきながら立ち上がった。
一歩、二歩、ビロウに近づいて、ビロウの小柄な肩に触れる。

 
振り向いたその顔に、ナズナは自分がどんな表情を向けるのか分からなかった。
恐怖して、悲しくて、怒って、この短い間に気持ちが揺れ動きすぎた。
けれど、そんなナズナがビロウに向けた表情は。

 
「……ありがとう」

 
ただひたすら優しかった。
ナズナの差し出した手をビロウは掴んだ。

 
「……ミス・ナズナ、本当にすまなかった」

 
差し伸べてくれた手に力が入ってしまう。
自分は人間でないようで、確かに人間だった。
この場所に来て何かが変わったか? 
いや、何も意味が無かったじゃないか。

 
「今は一度、帰ろう?」

 
ビロウの思いつめた表情は、ナズナの優しい顔に少しだけ和らいだ。

 
南の町の方から、足音が聞こえてくる。
ナズナ達は、現実の世界に戻ってきたような気がした。
 



 
 
 
 *
 
 
 



 
 
全ての根源。
それはある人ならざる者がある青年に出会ってしまったこと。
出会えるはずのなかった奇跡に人ならざる者は驚喜し、そして、その果てに嫉妬した。
嫉妬から事件を起こし、人ならざる者は青年と自分をより強く繋ごうとした。
青年にだけつきまとっていたが、後にもう一人の人物と出会うことになる。
その人物から『存在感』をもらい受け、人ならざる者は大好きな人間の輪の中に、好きな時に、姿を現すことに成功した。
青年以外の人物にも認識してもらえる嬉しさに、人ならざる者は酔いしれた。
自分を『視える』ようにしてくれたお返しに、その人物の願い事を叶えてあげた。
そして、もっと色んな人間の願いを叶えてあげたいと、人ならざる者は考えた。

 
時を越えて、人ならざる者は人間達の中で沢山のことを学ぶ。
仕事、戦争、遊び、歌、喜び、怒り、哀しみ、そして好きという気持ち。
つまり、恋。

 
多くの世界を巡り、青年と段々会うことがなくなっても、人ならざる者は青年のことを一度たりとも忘れはしなかった。
心というものがあるのかは分からないが、人ならざる者は心のどこかで、青年と会うのが怖かった。

 
その理由こそ、神のみぞ知る。
 
 
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自己紹介:
某高校で文芸部に所属していました自称駄文クリエイター。今さっき命名(←)。オリキャラ好きーです。高校在学中に執筆していた「仮死にとらわれ」という作品の最終話をワケあって連載します、ネットサーフィンで辿り着いた方で1話から読みたいって方がいれば声かけて下さいませ。時々詩や日記や作品解説も。

※個人誌「仮死にとらわれ」は2008年度の作品です、年度の表記を怠ったのを今更ながら後悔;
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