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期間限定オフの小説最終話用ブログ(2008年7月より運営)
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反応したいことはありますが…最後まで完走したときに言いましょう。
あの、多分ですね、茶道の合宿11日から行くんですがね。
その前に完結しそうです…展開とか文章の下手さとか期待に添えなかった部分も多々あるお話でしたが。
今日の更新が最終話のラスト3だったりしま、す。おそらく。
というか今回で話の一番大事な部分は終了といいますかね。
次からエピローグみたいなもの…なのか…?(え

今回はビジュアル的な問題に悩まされましたが、いや個人的にね!
ネタバレ注意!!
クライマックスも批判は受け付けていますのでお気軽に!!



 *
 
 
 
 
「ヒガ、ン……?」

 
ナズナの口から出た言葉に、彼女は、ヒガンはにこりと笑むことで答えた。
ナズナの強張った表情を溶かすように。

 
「久しぶりね、ナズナ。
それから本当に久しぶり、クスノ」

 
ナズナの目の前で、ヒガンは足を揃えた。
あれから力をつけたせいで、体が成長したのだろうか。
少女の姿をとっていたときよりも妖艶さが増している。

 
「といっても、クスノはわたしのことは覚えていないでしょうけれどね」
 
「……覚えているよ」

クスノの返事に、ヒガンは意表をつかれたのか目を(しばた)いた。ナズナも思わず、ヒガンの顔からクスノの顔へと視線を移した。

「え、クスノさん会ったことあるの……!?」
 
「アタシの大切な人を、二人もどうにかしちまった存在だっていう意味で覚えているのさ」
 
「でも『セイサクシャ』ちゃん、あんたのことは憎んじゃいないよ。
前まではすごく許せなかったけどね」

 
笑みのない、明るい茶の瞳がまっすぐにヒガンを射ていた。
それはナズナの初めて見るクスノの表情で。

 
「二人……、わたしの最初の交換この相手と」
 
「そう、アタシの旦那と息子のことさ」

 
ヒガンの言葉を遮って、クスノは言い切った。
クスノはいい歳なのに、一人で店を営んでいることにナズナは少なからず疑問を抱いていた。
夫や子供はちゃんといるのか……いや、いたのか? 
そして、ナズナはそれに関係することで、先程口を開きかけたのだった。
でも、今質問するような勇気は無い。
真剣で、どこか寂しそうなクスノと、何をしにきたのか分からないヒガン。
ヒガンが来た理由に、ひっそりとナズナはある予想を立ててみる。
それは、ナズナにとってとても都合のいい予想。

 
「『セイサクシャ』ちゃんが原因じゃなくて、旦那が優しすぎたのと、アタシが最低な妻で最悪な母親だった。
アタシが悪かったんだって思うと、あんたへの思いはすうっと軽くなってね」
 
「憎しみがわたしから自分自身に移行したのね」

 
そうなんだろうよ、とクスノは溜め息をついた。

 
「ナズナちゃんや色んな人から話を聞いたよ。
『セイサクシャ』ちゃんのこととか、沢山のものと引き換えにカシを取り込んだこと」

 
そう、とヒガンは静かに返事をした。
クスノとヒガンの話が切れたところで、すかさずナズナは声を振り絞る。

 
「あの、ヒガン。
ヒガンが此処に来た理由って……」
 
「あなた達に会っておきたかったのと、ちょっと聞きたいことがあったからよ」
 
「聞きたいこと?」
 
「ええ。
ねえ、今のわたしって綺麗かしら」

 
それが聞きたいことなのか、と二人は拍子抜けしたような顔をした。
ナズナとクスノは顔を見合わせて、一つ返事をしてあげた。

 
「えっと…大人になって、前より綺麗になったと思う」
 
「そう…そっか……ありがとう」

 
素直にはにかんだヒガンは、ナズナの知っているヒガンではなかった。
こんなことを聞いて、こんな風に笑う子だったっけ? 
見てくれだけは可愛らしい。
けれど実態はもっと恐ろしくて、非道なことをする子で、我が侭で。
でもそれは、ヒガンの全てではなかったのか。
ヒガンはさらりと黒髪を揺らして、扉の方に向き直った。

 
「じゃあね」
 
「えっ」
 
「なっ……それだけなの?」

 
反射的にナズナは声を出してしまった。
クスノの手も、ナズナと同じ気持ちを表しているかのように、待ってと宙に浮いていた。

 
「それだけよ」

 
ナズナの都合のいい予想はがらがらと崩れた。
クスノの固まった表情から、恐らくナズナと同じような予想を立てていたみたいだった。
ゆっくりと、来たときと同じようにヒガンは歩いていく。
扉の前まで来たときに、ふと、左側の壁を見やる。
一箇所だけ周りとはほんの少し違う、小さな丸い跡に、ヒガンは手を伸ばした。
それは以前、ハッカが開けた穴の跡をクスノが修復させたものだった。
ハッカの傘の、力の残滓があるのだろうか、ヒガンはそっと指でなぞる。
それからドアノブに手をかけて、ヒガンは後ろを少しだけ振り返った。

 
「わたしはもうあなた達の目の前に現れることはないわ」
 
「え……」
 
「わたしは『セイサクシャ』じゃなくて、正真正銘の『欠ケモノ』だったんだと思うの。
植物でも動物でも人間でもない、行き場の無い欠陥品」

 
どうして神様は、わたしみたいな存在を生み出してしまったのかしらね。
意味深なことを呟いて、扉を静かに開けた。

 
「あいにく忘れさせる力を使うのも惜しいの。
だから、わたしのことは時間と共に、頑張って忘れてちょうだい」

 
ヒガンに何があったのかは知る由もない。
けれど、陽光に照らされて気取って微笑むヒガンに、ナズナのこめかみはぴくりと動いた。

 
「そんな!」

 
勢いよく椅子から立ち上がってナズナは叫んだ。

 
「ヒガンってビロウの言うように我が侭! 
酷いことしておいて忘れられるわけないじゃない! 
火事とか、ウルシさんから助けてくれたのだけは感謝するけど……。
でも、それと」

 
貴女は欠陥品じゃないよ。
『欠陥品』という響きが嫌で、ナズナはそう言ったにすぎなかった。
ヒガンの全てを分かった上で言えたら、良かったと思う。
でもそれは不可能で、それでも彼女のその言葉は否定したかった。
きっと、ヒガンはそんなナズナの気持ちを見透かしているのだろう、黒い瞳はしっかりとナズナをとらえていた。

 
「わたし、さっき嘘を言ったわ」
 
「嘘……?」
 
「願いを叶えてあげる。
交換こ無しでね」

 
言ってナズナ達の元に引き返すのかと思いきや、ヒガンは外へと足を踏み出した。

 
「ちょっ、ヒガンっ!」

 
ナズナとクスノは閉じられた扉に向かって駆け出した。
ぎっと鈍く甲高い音を立てて勢いよく外に飛び出し、ヒガンを追おうとしてもすでにヒガンの姿は見えなかった。
――扉を開けた時点で、追おうとする気持ちは一瞬のうちに飛んでしまった。
 
 
 
 

 
店の前で、黒装束に身を包んだ白髪の彼が、一ヶ月ぶりの彼が横たわっていたのだから。
 
 

 
 
 
「カ、シ…?」

 
見間違うはずもなかったけれど、ナズナは問わずにはいられなかった。
目の前で消えたのも非現実であり、急にこうして現れたのも非現実で、信じがたかった。
カシはゆっくりと瞼を開いた。
開かれた瞳は緑色ではなく、明るい茶色。
むくりと起き上がったカシに、

 
「――っ!?」

 
ナズナは立て膝になって、ぎゅっと強く抱きしめた。
鼓動も感じる。
お菓子の仄かな甘い匂いも感じる。
幻ではない。
温かい。
嘘ではない。
他の誰かでもない。
カシがこの世にいることを確認するかのように、ナズナは強く抱きしめ続けた。
ぼんやりとしていたけれど、急なナズナの行動、上を見上げれば涙を湛えたクスノの顔に、カシの頭は覚めていく。
自身の左肩の上にかかるナズナの腕を触れようとする前に。
右側ではなく左側に結ったナズナの三つ編みに気付いて、カシは口を開いた。

 
「きみ……今日は左なんだね」

 
二人は同時に打ちのめされた。
くっとクスノは笑いを漏らし、ナズナは赤くなってカシから離れた。

 
「今、それ言うことかな……」

 
むっとして言うナズナに、カシはごめん、と微笑んだ。

 
「心配かけたみたいでごめん。
それと、ただいま。
クスノさん、ナズナ」



 
白い太陽はゆるやかに傾く。
その光は柔らかく、三人に降り注いでいた。
彼らがかろうじて見える小さな丘から、ヒガンはその様子を眺めていた。
そうして、やがて歩き出す。
風に掻き消えてしまうような言の葉を――小さな声で歌を紡ぎながら。
 
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自己紹介:
某高校で文芸部に所属していました自称駄文クリエイター。今さっき命名(←)。オリキャラ好きーです。高校在学中に執筆していた「仮死にとらわれ」という作品の最終話をワケあって連載します、ネットサーフィンで辿り着いた方で1話から読みたいって方がいれば声かけて下さいませ。時々詩や日記や作品解説も。

※個人誌「仮死にとらわれ」は2008年度の作品です、年度の表記を怠ったのを今更ながら後悔;
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