仮死にとらわれ―最終話其の７―

10月になってしまいました、ねぇorz

 

 

 

 

＊

 

 

 

 

――栗色の髪…十歳ぐらい…。

コンビニに出来る列を見ながら、カシはすたすたと歩いていた。地べたに座って水を飲みながら話をしている人もいる。

「奥さん、子供さんいたよー！」

声のした方を向くと、うわああと泣きながら親に抱きついている子供が見てとれた。その子供の顔は土や埃で汚れ、服もまた然りである。リコリスも寂しい思いをしているのだろうかとカシは思って、足を速めた。

――前やってた時みたいに感覚を研ぎ澄ませればいいんじゃないか…？

ひた、とカシは止まった。カシ売りさん時代のときは、沢山の人の想い、それも死を願う程の悲しみを聴いて人々を眠らせていたものだ。つっ立っていても人にぶつからないような会社と思しき建物の壁に身を寄せて、行き交う人、更にその遠くを見据えてみた。

――……。

無理そうだ。色んな人の想いは視える。けれどどれがリコリスのものかなんて分からない。僕がリコリスです、なんて思っていてくれれば分かるがそれはまず無い。この方法は駄目か、と視るのを止めようとしたときにカシは目をぱちくりさせた。

（子供の言った黒コートの奴はなかなか見つからないな。着替えたのか、町の外で見たと言っていたからもう逃げたのか、やはり関係の無い人なのか、ガセなのか…ああ畜生、ケムリ欲しくなってきた…）

カシと対極になるような場所で、その思いを抱えた男はポケットをごそごそと漁ってライターとタバコを取り出した。格好からしてこの火事を調査しに来た警察だろうとカシは思った。警察の人にもリコリスの件をお願いしてみようかと考え、カシはその男に近づこうとする。

――そういえば俺、ニュースになったんだった。

一歩踏み出してカシは固まった。カシ売りさんの事件、きっと警察も捜査しただろう。カシがその事件の張本人だという証拠は何処にも残っていないが――目覚めた人の記憶にも残っていない――、注意して行動した方がいい。それにイチョウがすでに捜索届けを出しているかもしれない。やっておいてあれだが、カシは捕まりたくは無かった。目の前の警察官はふーっと気持ち良さそうに煙を吐いている。

（一応この町のありとあらゆる店で最近マッチを購入した人を訊いたが該当者無し…。地方の警察署にも捜査協力を仰いだ方がいいと上に言ってみるか…）

警察官と一瞬目が合ったようでカシは少し驚いた。が、驚く必要は無いことを思い出す。あちらは俺をまだ認識していないはずだから。

「あのー、此処でタバコ吸わないで頂けます？私の店禁煙なんで」

「おっと、これは失礼しました」

（此処は店外だってのに…はぁ）

携帯灰皿にタバコをしまい、警察官は別の場所に移動した。カシはなんとなく、この火事の真相が掴めるだろうかと思ってそっと警察官の後をつけていこうとした。リコリスのことは火事の情報を掴んだ後で探しに行こう。この警察官にはそんなに時間をかけないから…。

 

『わたしに会いに来てくれたのね、ぼうや』

 

ばっとカシは後ろを振り向いた。

――何処で視えた…というか、聞こえた？

緑色の目を光らせて探してみたが、分からない。ただの空耳だろうか。空耳なのかもしれない。他人の他人に対する想いなのかもしれない。カシはどう見たってぼうやと呼ばれるような風貌ではないからだ。

――気のせい、か？

カシは再び警察官の後を追うことにした。カシの足のあったその場所には何かが焦がされたような跡がある。その中央で、小さな黄緑色の芽が覗いていた。