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期間限定オフの小説最終話用ブログ(2008年7月より運営)
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此処から見直しが疎かになっているので…ちょっと心配…。
少し長め。

 
 
 
 
 
 
 
 
「どういうことですの、ウルシさん?」
大型の高級トレーラーハウスの中で、スズシロはラジオを聞いているウルシに鋭い目を向けていた。
「勝手に車を降りて独りで別行動を取るのは謹んで欲しいものですわ」
「車ガぱんくシタノガ悪インダッテの。暇ダッタカラさ」
「……。まさか、貴方すでに『セイサクシャ』のいるかもしれない町に行っていたりはしませんわよね」
「…、町ニハ行ッテナイッて」
はぁ、とスズシロは扇子を扇ぎながら溜め息をついた。
「スズシロ様、僕そろそろ寝るね…。本当に昨日はごめんなさい……」
「もう貴方のそれは何回目も聞きましてよ。貴方は頑張ったと思いますわ、だから次の機会もよろしくお願いしますわね、ゼンマイ。…それと、子供みたいにベッドの中でお菓子をこそこそ食べようとしていませんこと?」
どき、とくせっ毛の強い白髪の人――ゼンマイは後ろ手にスナックの袋を隠し持っていた。怒りの伺えるスズシロの笑顔に怖気づいて、そろそろとテーブルの上にそのスナックを置いてお休みなさいとその場にいた三人に言ってからベッドのある部屋へ向かった。ウルシはじっとゼンマイの後ろ姿を見てにっと笑う。
「従順ナ『欠けもの』ダな。何処デ手ニ入レタンだ?」
「あの子を物のように言わないで下さらない?」
「アンタ、他ノ『欠けもの』ニ対スル考エトアイツヘノ態度違クナイか?今日観察シタ上デノ結果ダが」
「なら私からも少し言わせて頂きますわ。今日、今貴方のお掛けになっている青いサングラスの必要性はありまして?今は夜でしてよ。それと…青よりも赤か黒の方が似合っていると思いますわ」
ぴく、とウルシはスズシロのある言葉に反応した。
「……。青ハイい。黒モイい。ダガ…赤ハ大嫌イだ」
「珍しいですわね、真面目に答えてくれるなんて。でも妙ですわ、ウルシさんの髪の毛も先の方だけ少しだけ赤く染まっているのに」
スズシロの問いに、ウルシはチッと舌打ちをした。む、と勿論スズシロは不快になる。ラジオに繋いでいたイヤホンを耳からはずし、そこで初めてスズシロに面と向かった。左目までも青いサングラスに隠されてしまい、視界が悪くは無いのかと不思議に思う。
「染マッテナイ、コレハ地毛だ。嫌ダカラ真ッ黒クシた」
「…まあ!髪の毛の手入れが丁寧でないから先の方の黒が剥げてしまっているのですわね?」
ウルシのこめかみがぴくりと動いたが、髪の毛によってスズシロは見えなかった。ソファから立ち上がって、ウルシもまたベッドの部屋に向かおうとする。
「何故、そんなにも赤が嫌いなんですの?」
ぴたり、とウルシは少し止まって
「とらうまダカら」
と適当に吐き捨てて就寝についた。
――トラウマ?
スズシロはガシャンと閉められた扉を少し見つめたあとに、このリビングに最後に残った人物――櫟と、少しだけ真夜中のティータイムを楽しむことにした。この一日にあったことを整理しながら、疑問を持ちながら。
 今日の早朝、それも朝日の昇らない頃にスズシロ達はゼンマイの眠っている小屋に到着した。床にくたりと倒れて寝込んでいたゼンマイを起こして事の真相を知り、スズシロと櫟は落胆したがゼンマイの無事が何よりも大切だった櫟は今の状況を喜びゼンマイを抱きしめた。
「案外、今日お嬢様とカシさん達はすれ違っているのかもしれませんよね」
「んー…、それはありえませんわ。私は『監視ビト』ですもの、『欠ケモノ』が傍にいらしたら逃がしませんわ。…あら、この紅茶って私の家に無かったものですわね」
「これはわたし達が出発する前に荻野さんが買い付けてくれたものだそうですよ。朝出かけたそうで…」
「荻野が…。戻ったら、一昨日の夜のことを謝らないといけませんわね…」
カップの中の鮮やかな水面を見つめてスズシロは呟いた。
 ゼンマイを拾った後は――それとウルシにゼンマイと今の事態を説明した後――トレーラーハウスを走らせてビロウの元へ向かった。前々からビロウの真実を知りたかったのと、カシのことを聞き出すためである。ウルシもビロウの噂は知っていたらしく、スズシロと二人で教会に赴いたのだが直前でウルシはビロウに会うのを止めて扉の前で待つことにした。中でスズシロはビロウに会ったが、ウルシと会わなくて正解だと思った。長きを生きる木のように静かで智を蓄えた人物だと思っていたのだが…。
「櫟さん、この車のパンクについてどう思いますこと?」
「昼間にがくんと揺れた時は驚きましたね。パンクしたタイヤを調べたら中に銃弾が入っていたとか…い、一体誰がこんなことをしたんでしょう…」
「この車にSPを乗せなかったのはぬかりましたわ。私の能力によって犯人は『欠ケモノ』でも『監視ビト』でもないのは分かっていますけれど…」
私に楯突くなんて許せませんわ、と言うスズシロの目からは殺気が感じられた。お嬢様は昔から静かに怒られる、と櫟はどきりとする。
 ビロウから話を聞きだした後、といってもビロウはカシのことは話してくれなかったが『セイサクシャ』についてはぺらぺらと話してくれた。デートの誘いも受けたが丁重に断ったのは言うまでも無い。ビロウの言う町に向かう途中で例の車のパンクが起こり、直して再び車を走らせようとしたら何故かウルシが姿をくらましていて。ようやくウルシが戻ってきたのでやっと車を走らせたものの、町に着かないうちに夜になってしまったというわけだ。運転しっ放しの運転手の体を労わって今日はもう休むことにした、というのがスズシロの動向のあらすじである。紅茶を飲み終えて、スズシロはふぅと息をついた。
「櫟さん、私達もそろそろ休みましょう?」
「そうですね。お嬢様、ここは片付けておきますから先に休んで下さい」
「なんだかすみませんわね…。では、お先にお休みなさいですわ」
ふわりと黒髪をなびかせてスズシロはその部屋をあとにした。
――……。
ゼンマイのベッドのある扉の前でふと足を止める。扉についた小さな窓からそっと中を覗いてみると、中は暗くてよく見えない。
「スズシロ様、どうしたの?」
「え、あら、ゼンマイ…どうして外に?」
スズシロはどきりとして少し慌てた。歯を磨いてたんだよ、とゼンマイは返す。
「スズシロ様、明日こそは僕カシ売りさん捕まえるからね…?」
上目遣いで誓うゼンマイに、期待しますわとスズシロは微笑んだ。全く、大人なのに、男なのに、何故こんな愛らしい表情ができるのか。陰でスズシロの顔は引きつっていた。記憶を無くす前と変わりませんわね…。
「あ、それと洗面所にイヤリングが置きっ放しになっていたんだけど…これってスズシロ様の?」
ゼンマイの掌の上に、スズシロがいつもつけているクリスタルのイヤリングが乗っていた。
 ぱしっ
「す、スズシロ様…?」
「ゼンマイ、貴方何も思い出していませんわよね?」
素早くイヤリングを手に取ったスズシロに威圧されてゼンマイは恐る恐る頷いた。何か気に障ることでもしてしまったのだろうか。スズシロは無意識にイヤリングを握り締める。
「……、怖い顔をしてごめんなさい。届けてくれてありがとうございますわ」
疲れたように微笑んだスズシロに、ゼンマイは小さくお休みなさいと言って部屋に戻った。
 ガチャン
――僕は…スズシロ様に嫌われたのかな…。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…。寒さに震えるようにゼンマイは腕を掴んだ。スズシロの顔と、クリスタルのとある草花のイヤリングが頭をよぎる。
 ズキン!
「いっ……!?」
ゼンマイは急に痛み出した頭を右手で抑えた。よろよろとベッドに倒れ込む。
『僕、――――姉ぇを助けたいんだ…!いつも何か悩んでるのに僕は何もしてやれないから…』
『あなたのその思い、受け取ったわ。わたしが願いを叶えてあげる』
『だから、あなたもわたしの願いを叶えるのに少しだけ協力して…』
「君は……」
誰?ゼンマイはそのまま気を失ったように眠ってしまった。頭の中に浮かんだ誰かが微笑んだことなど、次の日の朝、ゼンマイは忘れてしまっているだろう。
 
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自己紹介:
某高校で文芸部に所属していました自称駄文クリエイター。今さっき命名(←)。オリキャラ好きーです。高校在学中に執筆していた「仮死にとらわれ」という作品の最終話をワケあって連載します、ネットサーフィンで辿り着いた方で1話から読みたいって方がいれば声かけて下さいませ。時々詩や日記や作品解説も。

※個人誌「仮死にとらわれ」は2008年度の作品です、年度の表記を怠ったのを今更ながら後悔;
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