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期間限定オフの小説最終話用ブログ(2008年7月より運営)
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はい、これで前編と言いますか一区切り終了。

 
 
 
 
 
 
 
 
 雲に飲み込まれてしまいそうなその月を、街の民宿から眺めている者がいた。きしりきしりとロッキングチェアーを揺らしながら、その男は寛いでいる。その近くのテーブルの上には水滴の光るガラスのコップと、空になったとっくりが置いてあった。
「まだこんなところにいたんですか、ビロウさん」
自分を呼ぶ誰かの声に、その男――ビロウはくるりと振り返ると何故か残念そうな顔をした。
「なんだ、セリハくんか…」
――何で「ああミス・ハッカの方が良かった」みたいな顔をして溜め息つくんだよ…!?
「あの、明日早く出かけるんですよね?こんな遅くまで起きていて、しかもお酒なんて飲んでていいんですか?」
「おや、きみもわたしと一杯飲むかね?」
「オレは未成年です…!ていうか、あんた凄い顔赤くないか!?」
セリハを無視してとっくりに手をかけると「ああもう空だったよ、すまないね」と赤い顔でにかりと笑う。長い髪を全て下ろしているので、ナズナ達の初見の時の姿程ではないけれど、今のビロウはお化けのようだ。
「ハノはなかなか酒を飲ませてくれなかったからね、久々にハノの監視下でないから宿の人に頼んで持ってきてもらったのだが…やはりわたしは酒に強くないらしい」
「分かっててなんで飲んだんですか…」
「今日という日に乾杯したかったのだよ。…ああ、今ならミス・ハッカを口説き落とせるような気がする!」
「そこでじっとしていて下さい…。オレ水取ってきますから…」
発言といい(いつもと変わらないが)目が虚ろなのといいセリハは心配になったので近くの冷蔵庫の扉を開けた。冷えたペットボトルを取り出すと、こちらに投げて構わないよとビロウが言う。
「いや…コップに注ぎますよ。今のあんたペットボトル落としそうだし…」
「そうか、悪いね」
コポコポとコップに水の注がれる音だけが部屋に響く。セリハから水を受け取ったビロウは小さく喉を鳴らしながら水を飲み干した。
「そういえば、セリハくんは何故起きてきたんだ?」
「なんか…目が覚めたから、水でも飲もうかと」
ほぅ、とビロウは言ってゆったりと背もたれに体重を預けた。
「酒も飲めない子供は早く寝たまえ。今日はなんともよろしくない夜だから」
「な…っ!…、外見未成年寄りの真っ赤なあんたも早く寝たらどうなんだよ」
ふっと、ぴりぴりした眼鏡の少年をよそにしてビロウは目を閉じて笑った。きしり、とロッキングチェアーが揺れる。
――帰ったらハノにロッキングチェアーを買ってもらうとしよう。
うん、と頷いてビロウは再び窓の外を見る。深緑の双眼は暗い夜空の他にも何かを見据えているように思えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
「力が弱くなってきているわ…」
もう消滅時なのかもしれない。月が再び隠れた頃、黒い野原に少女の呟きが染み入る。呼応するようにざわざわ、と風も無いのに小さな芽はさざめいた。
「わたしが消えたらあなたも枯れて…あの人も事切れて…でも」
少女はしゃがみ込んで赤いバラを触る。くすり、と怪しい笑いを浮かべた。
「わたしはまだ消えはしないわ…。明日、面白い劇の幕があがるんだから」
とんっと少女は立ち上がった。少女の足元には赤いバラだけではなく、他にも赤い花がぽつぽつと咲き始めていた。小さな芽が、急速に成長していく。
「わたしの大好きな赤い花、咲きなさい。これくらいでへこたれるあなた達ではないでしょう?」
笑う少女に答えるように、野原に、町に、人々の知らない間に綺麗な赤い花を咲かせる。ざわざわざわ、という音は絶え間なく。
「そろそろ戻らなくちゃね。…冷たくなった器は動かしにくいけれど」
じゃあね、と少女は言い残して赤い野原をスキップして帰っていった。そして、いつの間にか掻き消える。少女が掻き消えたのと同時に、赤い花は揺れ動くのを止めた。もうすぐ朝が来る――。
 
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柊葉
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自己紹介:
某高校で文芸部に所属していました自称駄文クリエイター。今さっき命名(←)。オリキャラ好きーです。高校在学中に執筆していた「仮死にとらわれ」という作品の最終話をワケあって連載します、ネットサーフィンで辿り着いた方で1話から読みたいって方がいれば声かけて下さいませ。時々詩や日記や作品解説も。

※個人誌「仮死にとらわれ」は2008年度の作品です、年度の表記を怠ったのを今更ながら後悔;
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