期間限定オフの小説最終話用ブログ(2008年7月より運営)
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2つまとまりがくっついてますが、前回同様片方が短かったのでくっつけました。
問題は然してないかと。
問題は然してないかと。
*
ツバキとリコリスがレストランの前に戻ってきたときには、ナズナもカシもイチョウもすでに其処で待っていた。イチョウは涙が零れるぐらい目を潤ませてリコリスの無事を喜び、リコリスの頭を撫でようとすると
「お爺、ここ人一杯いるじゃんか…!」
と言ってイチョウの手からすぐに身を引いたのだが遅くて、優しく頭を撫でられた。そんなリコリスとイチョウを見て、ナズナとカシは良かったね、と微笑む。イチョウに撫でられているのを恥ずかしく思いながら、そういえば、と目の前のナズナに視線を向けた。
「ねえお爺、この人誰…?」
「ああ、この方達はナズナさんとカシくんだよ。観光に来たらしいんだがお前を探すのを手伝ってくれたんだ、お前も礼を言いなさい」
「二人…?」
「初めまして、リコリスくん」
リコリスの赤い瞳に黒装束の青年が映る。こんな人目の前にずっといたっけ、と言いたげな顔をしているリコリスにツバキは早くお礼言わなきゃ、と急かした。
「…ありがとう」
こくっと頭を下げるリコリスに、いえいえ、とナズナはにこりとした。
「リっくん、学校の前でポニーテールの女の子に会ったんだけどその子もリっくんを探していたの。戻ってきたってこと教えてあげた方がいいんじゃないかな」
「あー、オミの奴かな…。お爺、ボクオミんとこ行ってくる!ご飯の時間までには家に戻るから!」
ぱたぱたっとリコリスは元気に走っていってしまった。イチョウやツバキが心配するような体の弱い子だとはとても思えない。
――元気な方のリっくんか…。
二重人格の子供とも思えないなぁ、とナズナは少女の言葉も思い出していた。リコリスは建物の角を曲がってもう見えない。
「あ…ナズナさんにカシさん。例の女の子のことなんだけど、何処にも見当たらなかったの。助けて貰ってばっかりで、何も返せなくてごめんね…」
「わしもそんな子は見かけなかったよ。悪いなぁ…」
罰が悪そうな顔をする二人に、そんな、とナズナは顔を振る。
「私も見なかったし…多分簡単に見つかるような人じゃないっていうか…ねぇ?」
「……」
「……カシ?」
「え、ああ、うん」
考え事をしていたカシを不思議に思ってナズナは首を傾げた。
「ねぇ、二人は何でその女の子を探しているの?」
ツバキはなんとなく、ずっと思っていたことを口にした。ついでにビロウのことも聞き出そうと思ったけれど今は止めておくことにする。どう説明しようかな、とナズナは考える。
「絶対に会わなくちゃいけないんだ」
ナズナとツバキ、イチョウは声の主…カシを見た。顔の左側の、長い三つ網を摘まんでくるくるといじっている。
「全ては説明できない。でも俺はその人に会う必要がある…変わらなきゃいけないから…」
――俺を想ってくれる人のためにも…自分のためにも。
「…そう、『セイサクシャ』を見つけなきゃいけない。でも、この町にいるかもしれないってビロウに言われたんだけど…いないとなるとどうしよう…」
ナズナはカシに何か考えが無いか仰いでみる。カシは真剣な顔で地面を見つめてまた考え事をしていた。この町を出発してもう一度教会に戻るか、クスノに連絡してみるか。前者は嫌だ…あの男はなんだか気に入らない、理由はよく分からなかったが。後者はもう「さようなら」を言ったのだ。それに…。
「ビロウがこの町にいるかもしれないって言ったのなら」
ビロウ、を特に意識してツバキは二人にこう提案した。
「二人とも、暫くこの町に泊まっていったらどう…?」
*
真夜中。今日は満月のはずだったが雲の所為で月明かりは地上に届かない。暗闇に焼けた町。民家や簡易テント、店の明かりも少なくなってきた時間帯にその〝花〟は黒い野原で僅かな風に身を委ねていた。
「……」
花は勿論喋らない。ただ静かに揺れている。
ざわざわざわ……
炭が風に飛ばされる。黒と黒の隙間から、小さな芽が幾つも生まれていた。
「……」
唯一焼けることの無かった花――野原に咲いていること自体不自然な、その赤いバラはゆっくりと揺れる。小さな生命の誕生を催促するように。
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柊葉
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自己紹介:
某高校で文芸部に所属していました自称駄文クリエイター。今さっき命名(←)。オリキャラ好きーです。高校在学中に執筆していた「仮死にとらわれ」という作品の最終話をワケあって連載します、ネットサーフィンで辿り着いた方で1話から読みたいって方がいれば声かけて下さいませ。時々詩や日記や作品解説も。
※個人誌「仮死にとらわれ」は2008年度の作品です、年度の表記を怠ったのを今更ながら後悔;
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