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期間限定オフの小説最終話用ブログ(2008年7月より運営)
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お待たせしましたこんにちは。
最近から「此処(つづきを読む以前のこのページ)に書くのってある種のネタバレだよなぁ」
とか思ったので内容に触れていない私です←
感想誤字脱字矛盾投石はどんとこい、です。
因みに次回は相当短いので…もう1つの区切りとくっつけようか考え中。


 
 
 
 
 
野原にいた者全員が、耳を押さえたまま地面に崩れた。
スズシロとウルシの二人も不意打ちのせいで、耳栓を用意することは出来なかった。
最も、用意するような状況ではなかったせいだが。
耳栓をしないまま、バッグの中にスピーカーを忍ばせていたのだ、第一にスズシロ、次点でウルシの耳と精神状態にダメージが大きかった。
特にスズシロは手の負傷もあるせいか、気を失ってしまっているようだ。

 
「嘘ダ……アノ『欠けもの』ハくろすぼうノ矢ニ絶対当タッタハず……!
『せいさくしゃ』ノ呪イガカカッタ品ナンダカラな……!!」

 
きぃぃん、と、耳鳴りという第ニ波の痛みが全員を襲う。
ウルシの呟きはナズナ、カシ、リコリスには聞こえなかった。

 
――あれは…。

 
煙が風に流されて、ナズナの視線の先のそれを霞ませるけれど、それは間違いなくこちらに向かって走ってきていた。
ウルシも誰かが走ってくるのに気付いたのか、地面に置いたクロスボウを拾おうとする。
『誰か』は急に走るのを止めた。
カシはその人物の手が胸元に動いたのを見て、急いでナズナの肩を掴んだ。

 
――耳を塞げ!

 
声は耳が麻痺しているせいであまり聞こえなかったが、ナズナはカシの口の動きとジェスチャーでそう確信して急いで耳を押さえた。
 
 
 
 
ピイィィィィ――――!!
 
 
 
 
再び笛の音が響き渡る。
五月蝿い、ではなく痛い。
耳を押さえたところであまり変わらないようにナズナは感じたが、両腕を地面についているウルシを見て彼よりダメージは軽減できているのかとぐらぐらする頭で考えた。

 
「スズシロ様っ!!」

 
声がぼんやりと聞こえて――ナズナ達の目の前を白い髪の男の子が走り抜け、その人物は気を失って倒れたままのスズシロの元に座り込んだ。

 
「あ……ああ……」

 
大量出血ではないにしろ、スズシロの左手の甲が傷つけられていること、スズシロだけが意識の無い事態に男の子、否、青年の顔はざあっと青ざめる。

 
「も…もしかして、あの子が…じゃなくってあの人が、ゼンマイさん?」

 
「そうだ」

 
火事によるものか状況によるものか分からない汗を拭って、カシはゼンマイをじっと見つめた。
能力なんていらない。
今の彼の精神状態は誰が見ても芳しくないことは分かる。
ゼンマイはスズシロの左手をそっと包んだ。

 
「こうするしかなかった…でも…でも…スズシロ様だけこんな……ああ……僕が……」

 
――『僕がスズ――姉ぇを傷つけたんだ』

 
瞬間頭痛が走り、咄嗟に頭を押さえたゼンマイに二人の意識が集中した。

 
「どう…して……」

 
痛みと急なフラッシュバックに苛まれる。
だから、ぞっとするような視線に気付くのに遅れてしまって。

 
「ゼンマイ!」

 
カシが叫んだと同時に引き金は引かれた。
小さな鋭い針は、ゼンマイの黒目を射抜かんとして放たれた、かのように見えた。

 
「っ!?」

 
ヂっとゼンマイのこめかみ辺りを掠って矢は通り過ぎる。
白いくせっ毛が二、三本花の上に落ちた。

 
「ナ…コレニ限ッテマタ外レルナンて……」

 
苦しそうな顔で、ウルシは歯噛みした。
ゼンマイは不安そうな顔で辺りを見渡し始める。

 
『これで二度目』

 
耳の麻痺は少しずつ治りかけている。
けれど、まるで通常時のように、誰の耳にもその声はクリアに聞こえた。

 
「なっ…誰の声…?」
 
「この声は…」

 
カシも、ゼンマイと同じように辺りを見渡してみた、が、やはり自分達以外に人影は見当たらない。
ゼンマイは色んな方向を向きながら声を振り絞った。

 
「ねぇ…!
僕を助けてくれたことは感謝する!
だけど、でも、僕よりもまずスズシロ様を助けてあげて欲しいんだ!
君ならできるでしょ…?」
 
『……あなたも優しいのね』

 
ふふっと姿無き声の主は笑う。

 
『それには…あなたの命の光がちょっと必要なのだけれど』
 
「スズシロ様を助けるためなら全部あげる!」

 
ぎゅっと、スズシロの手を握って言い切った。
そんな、とナズナは口を開く。

 
「どうしてあの人、スズシロさんのことあんなに…」
 
「……」

 
火は五十メートル手前まで迫ってきていた。

 
『前と同じような解答ね』

 
悠長に言ってのけたとき、再びジャカッという針を番えた音が全員の耳に届いた。
クロスボウを構えたウルシの顔はまるで般若のようで。

 
「ゼンマイさんっ!!」

 
バシュン、と針は空を切ってゼンマイに向かっていった。
 
 
 
 
「愚かな人」
 
 
 
 
突然強い風が赤い花びらを、炎の煙を巻き上げる。
目に塵が入ってしまいそうで、ナズナは反射的に目を瞑った。

 
再び目を開くと、まず最初に視線が行ったのは――、

 
「暫くはまたこの形を取っていられそう」

 
赤地に膝までいかないくらいの短い着物。
黒くて艶やかなおかっぱ。
六才、いや、十才ぐらいの女の子。
スズシロの横で倒れているゼンマイ。
片膝を立て、クロスボウを女の子に向けているウルシ。

 
「あの女の子…確か…」

 
ビロウから貰った絵の女の子に似ている。
ということは、つまり、そういうこと?

 
「ヒガン…っ!」

 
よろけながら、リコリスは嬉しそうな顔で身体を起こした。
ナズナは慌ててリコリスの背中を支える。

 
「リっくん!!
えっと、さっきも気になったんだけれどヒガンって……」
 
「マサカ本当ニ会エルトハな…」

 
口元に笑みが浮かんだが、ウルシの目つきは先ほどと変わっていない。
応えるように、女の子は挑発するような笑みを醸した。

 
「コンナフザケタ格好ヲシテイルトハ思ワナカッタガな」
 
「共食いしちゃうような出来損ないのお人形にはこのセンスが分か」

 
女の子が言い終える前に、ウルシはまた引き金を引いた。
一直線上に対峙しているのだ、外れるはずがない。
けれど、女の子のよろめく音の代わりに聞こえたのは、

 
「あははっ!
あなた、誰を目の前にしているのか本当に分かっているの?」

 
右手を前に突き出して、ウルシの放った針を指でつまんでいる。
神業だ。ナズナはそう思った。
女の子はころころ笑っていたかと思うと、花々の上を滑るように、びゅんっと一気にウルシとの間合いを詰めた。
片膝立ちのまま固まったウルシに妖しい笑みを浮かべる。

 
「その蒼い片目で、直にわたしの庭を見るべきだわ」

 
中指を親指に引っ掛け、力を込めてウルシの青いサングラスにでこぴんをかました。
こんっという軽い音がするはずだった。

 
けれど、聞こえたのはサングラスのはじける音。
次に、ウルシの悲鳴。

 
「何…なんなの……」

 
破片がささったのか、ウルシの顔に赤い血が浮かんでいる。
目は更に見開かれたように見えた。
それを、女の子が上から見下ろしている。
見た目は可愛らしい。
だが、ウルシと同等、今はそれ以上の恐怖が底から湧いてきている。
女の子とウルシに目が釘付けになってしまっていたので横でリコリスが嬉しそうにしていることには気付かないでいた。

 
「ナズナ!」

 
どくんっと心臓が跳ね上がる感じがした。
恐る恐る上を見上げると、心配そうにこちらを労わる顔が見下ろしてくれていた。

 
「……、大丈夫?」
 
「え、えっと…。
大丈夫じゃないけど、大丈夫」

 
お互い煮え切らないような顔をしつつも、先よりかはほんの少し安堵した。
加えてナズナの鼓動はいつもより早く動いていた。
この高鳴りの理由は分かっている。
こんな時にそんな些細なことを気にする余裕があるなんて…。
カシの口をじっと見たまま、ナズナは固まっていた。
ナズナの様子がおかしかったのでカシが何か言おうと口を開きかけたときに、ナズナ達の目の前にふわりと赤い袖がたなびいた。
一体いつこちらに移動したのか。
間近で見ると髪の毛も肌も着物も一流で、人間よりもお人形に近いように思えた。
女の子はリコリス、ナズナ、最後にカシを見渡したあとに可愛らしく微笑んだ。

 
「初めましてお嬢ちゃん。
そしてお久しぶりね、ぼうや」

 
といってもぼうやは何も覚えていないのよね、と女の子は残念そうに付け足した。
ナズナは至極信じがたいような顔をする。

 
「カシが、ぼうや?」
 
「……一昨日俺に話しかけたのは、きみだね」

 
そうよ、と女の子は答えた。

 
「アアアアあ……ッ!!」

 
目を押さえて呻くウルシ、すぐ其処まで迫る炎に女の子は溜息をついた。

 
「あなた達…最も、沢山の人がわたしに用事があるみたいだけれども、この状況では長くはいられそうにないわね」
 
「やっぱり、あなたが『セイサクシャ』なのね…?」
 
「世間ではそう呼んでくれているみたいね」

 
女の子は屈んで、両の手のひらを地面に押し付けた。
何が起こるわけでもない、と思っていたら、地に触れた場所からびりびりと氣のようなものが全身に行き渡る感覚。突然襲う気持ち悪い寒気。
ナズナは思わず腕を抱えたくなったがリコリスを支えているためできなかった。

 
「これでほんの少し、時間は延ばせたかしら」

 
風が吹いているわけでもないのに、足元の赤い花がざわざわと揺れている。

 
「火が…」

 
まるで赤い花が炎を吸収しているかのように、じわじわと勢いが無くなっているみたいだ。
ウルシが散らした場所には、ビデオの早送りのように新しい芽が生まれている。
目を押さえているせいで、ウルシは気が付いていないみたいだが。
赤い花達の動きに女の子は満足して、改めてナズナ達に向き合った。

 
「そう。
わたしが『セイサクシャ』よ――」

 
 
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柊葉
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自己紹介:
某高校で文芸部に所属していました自称駄文クリエイター。今さっき命名(←)。オリキャラ好きーです。高校在学中に執筆していた「仮死にとらわれ」という作品の最終話をワケあって連載します、ネットサーフィンで辿り着いた方で1話から読みたいって方がいれば声かけて下さいませ。時々詩や日記や作品解説も。

※個人誌「仮死にとらわれ」は2008年度の作品です、年度の表記を怠ったのを今更ながら後悔;
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