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期間限定オフの小説最終話用ブログ(2008年7月より運営)
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28だっけ?
違ってたらあとで直します。
次回更新はちょっと間が空くかもしれませんorz
バッグ提げてることを明記するの忘れていましたぎゃあああ…。

今回もまあまあ長いです。

 *
 
 
 
 
黒い左腕が、ゼンマイのいるとされる方角にまっすぐのびていた。
手袋のはめられた手には、銃のように引き金を引いて射る、小型の弓矢が構えられている。
右手で青いサングラスを掛けなおしてから、ウルシは奇怪な目を向けてくる目の前の人物達にニヤリと笑んだ。
ウルシに一番近い人物は冷めた目で睨み付けている。

 
「意外ダな」
 
「何が、ですの」
 
「オレガあんたノ大切ナ『欠けもの』ヲ傷ツケタッテノニ、あんたハ驚キモ怒リモシナイコトさ」

 
ジャカッという音を小型弓矢にいわせて手首を振った。
みたところ、小型のそれはCD一枚よりも少し大きいくらいの手軽そうなものである。
扇子の先を顎にあてて、スズシロはずっとウルシを睨み付けていた。

 
「これが怒っていないように見えまして?
貴方がいつか謀反を企てることぐらいお見通しでしたわ…流石にこんな早くにとは思いませんでしたけれど」
 
「流石オ嬢様、ッテか。
デモアンタ、人ヲ信ジルコトモ大切ジャナカッタノか?」

 
嘲るように、ウルシはスズシロを見下ろしている。
ナズナ達はいきなりの仲間割れに戸惑ったが、これは実はチャンスではないかと感じた。
しかし、ウルシの左腕が、ゼンマイのいる方角からこちらの方に構えられる。

 
「オット、オ前達、逃ゲラレルトカ思ウナよ?
今回は『欠けもの』『監視びと』ヲ駆逐デキル絶好ノ機会ナンダカラナぁ!」
 
「か…『監視ビト』って、まさかスズシロさんも!?」
 
「オレトコノ女以外ニ『監視びと』ハイナイダろ?」

 
ちゃき、とスズシロの喉元にそれは向けられる。
一体何故、という疑問がナズナの頭の中に尽きなかった。
それからどうして、スズシロはあんなにも冷静なのだろう。

 
「その物騒なもの、私に向けないで下さるかしら」
 
「物騒ナモノジャアナい。
コレハくろすぼうダッテ何回カ説明シタダロう?」
 
「クロスボウ?」
 
「……ボウガンとも言う奴だ」

 
こっそりと、カシはナズナに説明してあげた。

 
「でも、男が持ってるのは珍しいね。
しかも、あんな小さな形の女性用としか思えない奴は」

 
ウルシの左手の照準が、スズシロの喉からずれた、刹那。
決して正確にカシを狙っていたわけじゃないのに。
小さな針のような弓矢は、カシの右の二の腕にぐさりと刺さっていた。
あまりにも急で、ナズナも、カシ自身もすぐに反応できなかった。

 
「カシ…っ!?」
 
「カシ兄ちゃん!!」

 
ナズナはほんの少しよろけたカシの左腕を咄嗟に掴んで――その不思議な表情に気付いた。
やってくれたね。
疲れたような、それでもほっとしたような顔で誰かを見ている。

 
向き直ると、スズシロが扇子で思いっきりウルシの手首を叩いたところで。
きっとカシを撃った瞬間を利用したのだろう、叩かれた手首は小型クロスボウを手放した。
花の上に落ちたクロスボウをウルシが拾う前に、がんっとすぐには拾えない位置に蹴り飛ばしたスズシロに対して、ナズナは心底驚いた。
伊達に様付けで呼ばれているわけではないかもしれない。
屈みかけたウルシの頭に、びっと扇子を突きつけて上から無表情で見下ろした。

 
「私を侮っていたんではなくて?
貴方から武器を取り上げたところで、まだ貴方の方が有利な点がいくつかあるのは分かっていますわ」

 
だから、とスズシロは左腕に下げていたバッグから白いそれを取り出した。
ウルシは諦めたように座り込んで、それでも余裕のある笑みを浮かべていた。

 
「あんたナンカモ、銃ナンテイウ物騒ナモノ持ッテルジャナイカ。
白イノトカ見タコトナイケド、な」
 
「本物は重くて扱えませんわ。
これは銃の形を模した、ただの麻酔銃。
まだまだ改良中で、私はこの形好きじゃないんですの。
色は私のリクエストでしてよ」

 
扇子の代わりに白い銃をウルシに突きつけた。
形勢逆転。
無表情のまま、スズシロは続ける。

 
「カシさん、ウルシさんを挑発して下さってありがとうございますわ。
お礼に見逃す、なんてことはしませんけれど。
お屋敷についたら厚く手当てをしますわね」
 
「オレニ銃ヲ向ケタソノ状態ダト、奴ラニ今スグ逃ゲラレルンジャナイか?」

 
残念ながら貴方のせいで大丈夫ですわ、と冷たく言い放った。
ちら、と少しだけカシたちの方に目線を泳がせて、ウルシが事を起こさないようにすぐに戻った。

 
「貴方の武器、小さいくせにかなりカシさんに効いているみたい。
矢の先に麻痺毒でも塗ったのかしら」

 
サアな、とウルシはスズシロの顔を面白がるように言った。
スズシロとウルシの会話をよそに、ナズナは内心パニックに陥っていた。

 
「カシ、大丈夫!?大丈夫じゃないよね!?」
 
「大丈夫って言いたいけど大丈夫じゃないね…心臓の方とか狙ってくれればありがたかったんだけど」
 
「『欠けもの』ノこーとノ内側ニハ色ンナ障害物ガ詰マッテイル気ガシタンデね」

 
定番ダろ?と言うウルシにスズシロは麻酔銃を構えなおした。
少しは黙りなさい、と。

 
「貴方には、不本意ながら感謝する点もありますし、質問したい事柄も沢山ありますの」
 
「ヘえ。
ナラ、スレば? 
マアオレモ沢山アルケドな。
あんたガドウシテ自分ノ」
 
「ただ」

 
口調を強くして、スズシロはウルシの言葉を遮るように言葉を続ける。

 
「火の手も強くなってきましたし、カシさんや彼の状態も気になりましてよ…。
詳しくはお屋敷にてさんざん聞かせて頂きますわ」

 
お立ちなさい、とスズシロは威厳のある声でウルシに命令した。
ウルシはスズシロを見上げ、それから銃口をじっと見つめてニヤリとほくそ笑む。

 
「分カッタよ」

 
ゆっくりと膝を突いて、ウルシは立ち上がった。
スズシロは麻酔銃を構えることを止めないでいる。

 
「そのままカシさん達のところに行って下さる?」

 
向けられたまま、ウルシはカシ達に近づく――その前に、スズシロの斜め前まで歩いたところで止まった。

 
「トコロデ、あんたハソレヲオレノ体ノ何処ニ打チ込ム気デイルンだ?
黒こーとデ全ク肌ヲ出シチャイナイノに」
 
「どんなに分厚いコートでも、コレは貫く自信がありますわ。
大体、季節もそうですしこの計画も考えていたのだから、あまり重ね着はしていないと踏んでいましてよ」

 
この計画、というのは火事のことだろう。
カシの元々ボロボロなコートの端を裂き、それを使ってカシの右腕をきつく縛っている最中ナズナは考えた。

 
「暑い…」

 
がくん、と膝を折って倒れた人物に、ウルシ以外の目が注がれた。
ざわざわとナズナの心が波立って反射的に声を上げた。

 
「リっくん!?」

 
スズシロも別の意味ではっとしたが、時すでに遅し、白い銃身は手袋をはめた手につかまれていた。

 
「モット離レテ狙エバ安全ダガ確実ニ撃テル保障ハナイ、近ヅキ過ギテモ上手クイカナい。
難シイヨな…」



 
「Un lis de la vallée!
名ヲ偽ッタオ嬢様ヨぉ!!」



 
ダン、とスズシロは引き金を引いたが銃身を掴まれているのだ、簡単に軌道を逸らされて針は虚空を撃った。
ウルシの方が力はずっと強かった。
スズシロの手から麻酔銃をもぎ取り、再び嫌な笑いを浮かべる。
言葉にか、状況になのか。
スズシロの顔はさっと青ざめて硬直した。

 
カシの応急処置を済ませたあとにナズナは急いでリコリスを抱き起こしたけれど、リコリスの状態に違和感があった。
汗は一滴もたれてはいないが、確かに熱い。
熱く上昇したその体温に違和感があったのだ。

 
「わっ!?」

 
思わず、ナズナは再び赤い花の上にリコリスを寝かせてしまった。
ずっと触れていると火傷しそうなぐらい熱い。

 
「この子、一体何者なんだ?」

 
辛そうな顔をしながらも、声色は普通を装ってカシはナズナに訪ねた。
ダン、と空に銃の音が響き、その場にいる者全員が固まる。
一人だけは笑みを浮かべて。
ちゃき、と黒い腕は座り込んだ女性に向けられていた。

 
「本当ハあんたニ色々トオ返シヲシテヤリタい」

 
ウルシも同じように座り込み、左の懐から右手でナイフを取り出した。

 
「あんたト顔ヲ合ワスト、あいつガ思イ出サレタモンだ」

 
鈍く光るナイフをスズシロの黒い瞳に突きつける。
流石にこれには、スズシロも冷や汗をかいた。
この場で、本当に、リアルに、誰かが死んでしまう?
呼吸が止まる。メラメラと広がっていく炎の存在も忘れる。
嫌だ、恐い! 
危険な人物に思わずナズナの口は開いてしまった。

 
「止めて!!
なんで、そんな、貴方…仲間のスズシロさんにそんなことするの!?」
 
「別ニコレデ殺シハシナイ。
オレハ間近デ血ヲ見ルノガ大嫌イダカら」

 
ソレト、オレ達ハ仲間ジャナイ、とウルシは付け足す。

 
「互イノ過去トイウ弱ミヲ握ッテ利用シテイルニスギナイカラな」
 
「…貴方が先程言った〝あいつ〟というのも、貴方の弱みだったりするのかしら」
 
「コノ状況デモ口ガ開ケルトハ、流石オ嬢様」

 
左手の麻酔銃を地面に置いて、ウルシはスズシロの手を掴んだ。

 
「〝オ嬢様〟ッテノハ皆細クテ白イノか?」

 
右手のナイフを置いて、懐から細くて長い針――カシの腕に刺さったのと同じものを取り出した。
ウルシはそれをためらうことなく勢いづけ、

 
「――――ァ!!」

 
声にならない悲鳴、苦痛に歪んだスズシロの顔なんてどうでもいいように立ち上がり、蹴り飛ばされたクロスボウを拾いに行った。
スズシロの左手に刺さった針の先は、上手く刺す方法でも知っていたのか出血はあまりしていない。
が、傍目から見ても深く刺さったのは確かだった。

 
「あ…ああ……っ」

 
ナズナの全身を恐怖の二文字が支配する。
この場にいる者全員、動くことができない。
たった一人によって。

 
「ヒガン…」
 
「リ、リっくん…?」

 
弱弱しい声で、リコリスは呟いた。

 
「戻って…きて……」
 
「サテと」

 
ウルシの意識がこちらに向けられる。
左手にはあのクロスボウ、その先にいる人物は――。

 
「『監視びと』ヨリモオレは『欠けもの』ガ絶対ニ許セナイ。
奴ラハ非人間的ナ力ヲ使イヤガる。
最モ許セナイノハ『せいさくしゃ』ダガ、コノ地ニ来テモ奴ハイナい」
 
「『欠けもの』。
オ前ノヤラカシタコトハオレノ耳ニ入ッテる。
『かし売り』……オ前モ典型的ナ偽善者だ。
マア、オ前ノオ蔭デ『監視びと』一人、オレガ手ヲ下スマデモナク葬レタノニハ感謝スルよ」

 
クロスボウの先を向けられた人物――カシは緑の目を伏せる。
『監視ビト』一人とは、ハッカの姉のことだろう。
葬ったと言われれば、間違いではない気がした。
あの人が先に治らない病を抱えていたとしても、残された時間を『オカシ』という甘い毒でほとんど潰してしまったのだから。

 
「俺が殺した……」
 
「ソウだ」

 
ウルシは睨み付けるように照準を顔、何故だか緑の目に合わせた。

 
「あいつモオ前モ人ノ人生ヲ狂ワセヤガる…!
『欠けもの』ハ害だ。
『監視びと』モ奴ミタイニ力を収集シヨウトスルアクドイ考エヲ持ツノガ沢山イルカラ害だ」
 
「力の…収集…?」
 
「…ッ…ルシ…さん…!?」
 
「オレガ何喋ッタッテモウ構ワナイダろ?
ダケドコノ場所モ危ナクナッテキた。
オ喋リノ時間ハコレデ仕舞イだ」

 
引き金に指を掛けたウルシに、スズシロは腕を強く抑えながら声を振り絞った。

 
「…貴方、お屋敷にいたときに言いましたわよね…あんたがオレを殺そうとしなければオレも殺さないって!
私も、きっとカシさんも貴方に身の危険の及ぶことは致しませんわ!!」
 
「ソノ前ニオレハ、オレノ身ガ危ナクナッタラソノ元ハ絶ツッテ言ッタハズだ。
『欠けもの』『監視びと』ハ何ヲシデカスカ分カラナイカラ、な」
 
「その考えは……非道くてよ。
ウルシさん、貴方も『監視ビト』であるのに…!」
 
「『欠けもの』『監視びと』…デキレバ、『せいさくしゃ』モコノ世界カラ排除シタラ――オレトイウ害モ退場スルさ」
 
「ずるい…」

 
ナズナはリコリスの側に座り込んだまま、ぽつりと呟いた。
ウルシの視線がこちらに注がれる。

 
「『監視ビト』を嫌だと思っているのに、その力に頼って他の人達を見つけてる。
害だなんて言い方も許せない。
自分のことを退場というか…簡単に死ぬなんて言うのも許せない。
貴方、自分勝手すぎる」

 
ヒュゥ、とウルシは口笛を吹いた。

 
「言ウネェ、女。
オ前ダケハ見逃ソウト思ッテイタケド、普通ノ人間ノクセニ〝オレ達〟ノコトヲ知リスギテイる。
ダカラ、最後マデ震エテ待ッテろ」

 
お前〝だけ〟は?

 
「この人は関係ない!!」
 
「か、関係なくないんだから!!」

 
ナズナに反論されたカシは、一瞬思考が停止する。
そうだ。
確かにそうだけどこの状況でも言い張るとは。

 
「……ありがとう」
 
「え?」

 
静かに、ナズナにだけ聞こえるような声で言い続けた。

 
「アイツが撃った瞬間きみは町の方に逃げるといい…昨日のハノウさんの話だと彼らがそろそろ来るみたいだから」
 
「彼ら…?
でも、カシとリっくんを置いて逃げるなんて」
 
「きみには、いや、全滅したら意味がない!」

 
語気を少し荒げて言うカシに、ナズナは黙る。

 
「何カ策ヲ立テタトコロデ無駄だ。
因ミニ、今番エテイル矢ハサッキノヨリモズット協力ダカラな」

 
ニヤリ、とウルシはカシに向かって

 
Au(さよ) revoir(うなら)

 
引き金を引いて、ナズナは立ち上がり、走り出す――はずだった。
 
 
 
 
ピイィィィィ――――!!
 
 
 
 
カシにとって聞いたことのある笛の音が、野原全体に木霊する。
 
 
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柊葉
性別:
女性
自己紹介:
某高校で文芸部に所属していました自称駄文クリエイター。今さっき命名(←)。オリキャラ好きーです。高校在学中に執筆していた「仮死にとらわれ」という作品の最終話をワケあって連載します、ネットサーフィンで辿り着いた方で1話から読みたいって方がいれば声かけて下さいませ。時々詩や日記や作品解説も。

※個人誌「仮死にとらわれ」は2008年度の作品です、年度の表記を怠ったのを今更ながら後悔;
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