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期間限定オフの小説最終話用ブログ(2008年7月より運営)
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とりあえず「8月は2,3回更新できるといいです」っていういつかの希望は達成できました。
ここのところ短時間ではあるけども毎日小説書けてます。
でもUPするのはのんびりです、さーせん!


 
 
 
 
――げっ、見つかっちゃったかな?

 
遠くにいるナズナと目が合った気がして、くせっ毛の強い白髪の男――ゼンマイは咄嗟に頭を引っ込めた。
起伏のある地面だったのでなんとか隠れられた、はず。
引っ込めたとき、地面と、つまり赤い花と顔との距離が十センチ圏内にまで近づいて甘い香りが鼻腔を通り抜ける。
思っていたよりも強い匂いだったので、ゼンマイは顔をしかめた。

 
――覗くに覗けなくなっちゃったなぁ。

 
花が比較的咲いていない場所に腰を下ろして、自分の特徴的な髪の毛をくるくると弄り出した。
この原っぱが赤い花の群生地ではなく、白い花だったら目立たないのに。
若しくはもっと木や背の高い草が生い茂っていればよかったのに。


タイヤのパンクの件も解決し、やっとこの町に到着したとき、ゼンマイ達一行は色々と不自然な事態に出くわした。
カシ達はきっと此処にいるだろうし、あの『セイサクシャ』もいるかもしれない町なので慎重に行動しよう。
それには、このトレーラーハウスは目立ちすぎるということで、町の外、なるべく大っぴらな入り口である南側は避けた場所に止めておくことにした。

 
「北ノ方トカイインジャナイか」

 
ウルシの提案に従うこととなり、運転手は車を走らせる。
人家が少なくなってきたなぁとゼンマイが窓際でぼんやり考えていたそのときに、突然急ブレーキがかかった。
スズシロは運転手のところに櫟を向かわせようとしたが、今朝から櫟は部屋にこもりっきりでその場にいない。
仕方なく自ら事情を聞きに運転席を覗くと、ありえないことに運転手は目を閉じて眠っているではないか。
右足はブレーキに置かれたままになっている。
ゼンマイとウルシも何事かと確認しにやってきた。

 
「コノ町ノ『欠ケモノ』カ、『セイサクシャ』ノ仕業ダロウな」

 
あんたモボンヤリトハ感ジルダろ?というウルシにスズシロは静かに頷いたが、ゼンマイだけは『欠ケモノ』なので理解できなかった。
ウルシが自信ありげに言い切ったのも不思議だった。

 
ゼンマイは耳にセットした受信機に手をかざしてみる。

 
『全ク、憎タラシイケド羨マシイ能力ダ』

 
――ウルシさんの声だ。

 
声を大にしては言えないけれど、ゼンマイはウルシが嫌いだった。
理由の大半がスズシロもウルシを何処か毛嫌いしているから、だけど。
お屋敷にはいないタイプの人間だ。
アダンレーゾといういい所の坊ちゃんらしいが、礼儀作法がなっていない。
それに……。

 
――あの人、嫌な感じがする。

 
ぞくり、とゼンマイに悪寒が走った。
まだ少ししか行動を共にしていないけれど、あの人は僕のことをゼンマイではなく『欠ケモノ』としか呼ばない。
スズシロ様も何を考えてるか分からないけれどあの人も同じくらい分からない。

 
『……カシは此処にいるんだから!』

 
その言葉に、びくっとゼンマイは反応した。
この声の主、さっき僕と目が合った人…確か、ナズナさんっていう人だっけ。
カシ売りさん、僕と同類なのに、こんなこと言ってくれる普通の人がいるなんて。

 
「ずるいなぁ」

 
呟いて、ゼンマイははっとした。
自分にはスズシロという理解者がいるのに、ずるい、だなんて。
ぷちん、と片手で体のすぐ横に生えていた赤い花を手折った。
右の耳で会話を聞き流しながら、赤い花を見つめる。

 
――僕はスズシロ様を信じてる。

 
左手の指先で、茎をくるくると回転させながら。

 
――信じてる。

 
中途半端なところに車を置いて、人が見当たらないねなんて言いながら町を散策しているときは、不謹慎ながらもスズシロと一緒にいれるだけで凄く温かかった。

 
――利用されてるだけ、だとしても。

 
ぷつ、と親指の爪が茎に食い込んだ。
赤い頭はだらんと落ちて、茎の繊維だけかろうじて繋がっているせいか、宙にぶら下がった状態になる。

 
――スズシロ様の満足は、僕の満足。

 
この野原で、ゼンマイは赤い花を燃やす意義、燃やし始めたところで感じられたカシの気配、カシ達を捉えるための段取りを聞いた。

 
――失敗はもうしない。

 
『では、一緒に来て下さるかしら?』の言葉を聴いて、ゼンマイは赤い花を地面に置いた。
赤い花に寂しく、にっこりと笑った。

 
「ごめんね、君達のどの花が〝僕ら〟と同じなのか分からないけど。
皆、皆悪くないのは分かってる……」

 
空いた左手で、首にかけていた銀色のホイッスルを掴んだ。
地下研究室特製の、小型マイクも用意してある。
準備はとうにできていた。
この笛を吹くのは好かないけれど仕方ない。

 
気を張り詰めていただけに、カシの『分かった』という言葉にゼンマイは至極ほっとしてしまった。
笛もそうだが、こんな、陰から攻撃するなんてやり方も好きではなかったから。
あの時はカシ売りさん、年下のくせに強かったなぁなんてふと思い出していると、耳に笑い声が届いた。

 
――ウルシ、さん? 何かあった……ようには思えないけど。

 
今頃なら、ちょっと覗いてみてもいいだろうかという考えが過ぎった。
自分がいることはもうバラしたみたいだし、見られたところでカシもナズナも何もできないだろう。
スズシロの声を聞いて、どうやらスズシロの癇に障るようなことがあったらしいと想像する。

 
――ウルシさんって、やっぱり嫌だな。

 
たまらず、腰を起こしてゼンマイは5人を窺い見ようとした。
視界には真っ赤な野原と先よりも広がったオレンジの火の海と立ち上る煙。
五人とそれから、鈍い鉛色の光がこちらに目掛けてやってきた。

 
『危ないっ!』

 
その光が来る前に、ゼンマイは女の子の声を聞いた気がした。
初めて聞いた声ではない、何処かで、最近聞いたような感じの――。
 
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柊葉
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自己紹介:
某高校で文芸部に所属していました自称駄文クリエイター。今さっき命名(←)。オリキャラ好きーです。高校在学中に執筆していた「仮死にとらわれ」という作品の最終話をワケあって連載します、ネットサーフィンで辿り着いた方で1話から読みたいって方がいれば声かけて下さいませ。時々詩や日記や作品解説も。

※個人誌「仮死にとらわれ」は2008年度の作品です、年度の表記を怠ったのを今更ながら後悔;
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