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期間限定オフの小説最終話用ブログ(2008年7月より運営)
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注意書き。

・過去の話を読んでいないと全く分かりません
・某学校にいる方は過去の部誌を漁るか個人誌をお求め下さい
・ネットの方で過去の話が読みたい方はコメントどうぞ
・誤字脱字きっとあります注意してどうぞ
・B5でワード15Pぐらい読まないと主人公達でてこないぐらい最初は出番ないです
・最初はお嬢様にお付き合い下さい
・私受験生なので更新のとろっちさはどうぞご理解の程を><
・感想もご自由に 
・閲覧だけでも嬉しいです
・この回はフライング公開というか見なおししていないというか変な場所があったら指摘どうぞ


了承した方どうぞ。
ただ…読みやすさは保障していません。コピペですから。



仮死にとらわれ

最終話――ヒガン――




 
 
 
 
 
 
 
 
 
「Au revoir」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ある街の、其処の住民ならば知らない人は誰もいないほどの大豪邸の一室である書斎にて、その女性――スズシロは目の前のいくつかの書類に目を通していた。
――困りますわね。
かさ、という音を立てて手に取っていた紙を机の上に置く。小さなシャンデリアの光を反射する黒革の社長椅子に体重をさらに預けて、小さく溜め息をついた。そんな頃、部屋の扉をノックする音が響く。
「どうぞ」
失礼します、と声をかけてから中に入ってきたのは瑠璃色のスーツでびしっと決まった、二十代の男だった。手にはA4サイズの茶封筒が見受けられる。
「スズシロ様、報告なのですが……って、あの、お疲れですか?」
「…いえ、(わたくし)は大丈夫ですわ。続けて?」
にこり、とたおやかな笑みでスズシロは促す。男はその笑みに見とれ、けれど自分の業務を思い出して慌てて茶封筒の中から書類を取り出した。
「荻野はやっぱり面白い殿方ですわね」
「は、はい?面白い、ですか?」
「仕事は完璧にこなすのに、私の前ではお茶目な姿を晒すんですもの」
荻野と呼ばれた男はゴホンと咳払いをして、スズシロのからかいを無視して報告書を読み上げようとする。顔はほんのりピンク色に染まっていたが。
「報告なのですが…例の男の身元が分かりました」
「流石荻野ですわ」
机の上に置かれていた扇子を手に取り、スズシロはゆっくりと扇いだ。荻野は報告書を読み上げる。
「本名、ウルシ・ド・アダンレーゾ。年齢十九、異国出身。高級時計ブランド『アダンレーゾ』を生み出した家のご子息、だそうです」
「あら、そんなに有名な方でしたの。名前しか教えて下さらなかったから分かりませんでしたわ…」
「兄弟はいないようなので、後にスズシロ様と同じ社長の座につく可能性が高いかと」 
「『監視ビト』たるもの将来が輝かしいですわね。仲良くしておいて損は無さそう」
ふふ、とスズシロは未来を見据えて優雅に笑った。その顔に荻野は少し困ったような顔をする。
「そのご様子に水を差してなんですが…あの男、少々不明な点もあるようでして…」
「不明な点?」
扇子を扇ぐのをやめて、スズシロは荻野の次の言葉を待った。
「二年前、ある貴族のご令嬢を殺してしまったそうです」
――二年前…。
その年に思うものでもあるのか、スズシロは机をじっと見つめていた。荻野はつらつらと読み上げる。
「……で……しかし……そのご令嬢があの男の右目の視力を失わせる程の大負傷を先に与えたため、あの男のしたことは正当防衛、ということになってい」
「何故それがニュースにもなっていなかったの?二年前にそのような事件があったなんて…」
思い出したようにスズシロが喋ると、荻野は申し訳ないような口を開いた。
「ええと…最初に会社からの圧力で揉み消された事件だとご説明したのですが…」
「あ…ごめんなさいね、私ったら少しぼうっとしていたみたい」
困って笑うスズシロに、荻野は心配そうな顔をした。
「スズシロ様、一社員に過ぎない僕ですが…どうぞ何でも言ってやって下さい。『欠ケモノ』や『監視ビト』についてとか、細かい社長業務についてはどうとも言えないのですが、それでも僕は、いえ、社員一同スズシロ様の力になりたいと思っていますから」
真面目な顔で言われたその言葉に、スズシロは目を少し大きくした。頬のみならず、耳も少し赤くなっている荻野にスズシロは静かに言う。
「それは…私に対して言って下さっているんですわよね」
スズシロの探るような目つきに、荻野は意表をつかれた。そっと微笑んでくれるのを期待していた自分が卑しく思える。
「え…スズシロ様以外に誰がいるというのですか?」
スズシロにじっと見据えられてどきどきしつつも、荻野は尋ねた。シャンデリアの光に黒髪をきらきらとさせてスズシロは再び扇子を持つ。
「……そういえば、荻野は入社して一年目でしたわね。ごめんなさい、先の私の発言は忘れて?」
にこり、とスズシロは扇子で口元を隠して笑う。その扇子に隠されたものは口だけでは無いように思える、と荻野は詩人のようなことを考えた。
「それで荻野。私は貴方に何でも言っていいと言いましたわね」
「は、はい」
「なら、今私の小言を聞いては下さらないこと?勿論こんな時間帯ですから断ってくれても構いませんわ」
誰が断るというのですか、是非お話下さい!そういう荻野に、スズシロは優しく、しかし寂しそうに微笑んだ。
 てらてらと光沢を放つ杉の振り子時計が午後十一時を指し示す頃。スズシロと荻野は隣の部屋に移り、赤ワインを嗜みながら話を続けていた。二人の側では、召し使いのような若い女性が銀のお盆を携えて静かに立っている。
「全く、おかしなクレームばかりで困りますわ」
「…はぁ」
「荻野、今くだらない洒落を、だなんて考えたのでしょう?」
「いえ!そんなことは」
「冗談ですわ。だからそんなに慌てないでよろしくてよ?」
くすくすと頬を染めてスズシロは笑う。頬が染まっているのは主にアルコールの所為だろう。白い肌に赤みが差している今のスズシロはいつもよりも色っぽく見えて、荻野はスズシロと目が合わせられなかった。
「一昔前とほんの少し味が違うとか、美味しいけれど美味しくないとか、曖昧なお話は控えて頂きたいですわ…私は社長ですけれども、絶妙な舌は持ち合わせていませんもの…」
「しかし、スズシロ様は紅茶利きができると聞きましたが」
「不思議なことにね。好き嫌いが影響しているのかもしれませんわ」
「好き嫌いというと、スズシロ様はお菓子があまりお好きでないのですか?」
「ええ」
にもかかわらず製菓会社の社長だなんて、とても変なお話ですわよね。そう話した後、スズシロはグラスの赤ワインを飲み干した。確かに誰が聞いても不思議な話だ。
「瑠璃桜家の跡継ぎとして、仕方なくこの会社を受け継いだのですか…?」
「それは違いますわ」
扇子を先から静かに立っている女性の方へすいとふると、女性は空のグラス二つ――荻野はスズシロが飲み干すよりも前に飲み終えていた――と、ワインを銀のお盆に乗せて退出の準備を始めた。
「私は喜んで――お父様の後を継ぎましてよ。大勢の、有能で小さい頃から優しくして頂いた社員の方と共に世の中に貢献するって、とても素晴らしいことですわ。それにお菓子は沢山の人達を笑顔にしますわよね。私を幸せにはしませんけれども。…荻野はまだワインを嗜むかしら?」
突然気付いたようにスズシロは声をかけた。飲みすぎもよくないですし、と自身の体を労わるのと今片そうとしている使いの仕事を増やさないのとを考えて荻野はスズシロに返事を返した。二人のやり取りを確認した女性はお盆の上のそれらに細心の注意を払い、静かに部屋を退出した。
「少し前から気になっていたのですが」
戸が閉められた後に荻野はスズシロに声をかけた。
「さっきの使いの方といい、僕のような若輩者も含めてスズシロ様は若い人を意欲的に会社に受け入れていますよね」
「ええ。それが何か?」
「それは…何か考えがあってのことだと思うのですが。昔は『るりさくら』の雇用制度は厳しかったそうなので…」
「昔と今は違うものですわ。そんな当たり前のことを聞くなんて、荻野にしては珍しいですわね」
確かに気にするようなことではないのですが…。荻野は少し黙ったあとにやがて口を開いた。
「二年位前から、やたら若い人を受け入れすぎているような気がするのです…。それにちょっとした疑問を抱きまして――」
「荻野。ウルシさんを調べることが貴方の仕事であって『るりさくら』を調べるのはお門違いでしてよ?」
ばっと扇子を開き、口元を隠しながらスズシロは冷たく言った。予期していなかった声色に荻野の体は硬直してしまい、何か謝罪の言葉を捜さなければと内心焦る。
「すみません!以後勝手な行動は慎みます…」
 
 ぎっ
 
椅子を引いて立ち上がり、スズシロは戸に向かって歩き出そうとする。
「…大分夜も更けてきましたわね。荻野、今日はもうお休みになられた方がいいですわ。私の愚痴を聞いて下さってありがとう。貴方のその言葉、信じておきますわね」
荻野に背を向けたまま、スズシロは荻野に話しかけた。話し終わると、コツコツと軽くヒールの音を立てながら荻野よりも先に部屋を出る。
「「……」」
荻野は何も乗っていないテーブルを、スズシロは扉のすぐ側、ショールをきつく握り締めながら床をじっと見つめて思い詰めていた。
――怖がる必要なんか、無いですわ。
ショールを掴んでいた手を緩めて、スズシロは自室へ向かう。ふわりと揺れる黒髪の内側で、鈴のような花をつけた草花を模した、クリスタルのイヤリングが耳元で静かに揺れていた。
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柊葉
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女性
自己紹介:
某高校で文芸部に所属していました自称駄文クリエイター。今さっき命名(←)。オリキャラ好きーです。高校在学中に執筆していた「仮死にとらわれ」という作品の最終話をワケあって連載します、ネットサーフィンで辿り着いた方で1話から読みたいって方がいれば声かけて下さいませ。時々詩や日記や作品解説も。

※個人誌「仮死にとらわれ」は2008年度の作品です、年度の表記を怠ったのを今更ながら後悔;
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