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期間限定オフの小説最終話用ブログ(2008年7月より運営)
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うわあああ予定より進まなかった…orz
3月も終わりですね。
29日に↑の総集編を作ってみたわけですが、私が教育実習に行くまでは全部リンク繋げる予定です。
もしもまだ見て下さっている方がいれば、心から感謝。

出来立てほやほやなので間違いもあったらごめんなさい。
今回は…伏線回収祭り?長いです。
それと訂正ですが、前回りっくんもとい赤いバラは百十九年生きたという記述がありましたが
二百十九年の間違いでした。ご迷惑お掛けします。


 *
 
 
 
 
「セイ…ヒガン、どうして!?」

 
動かないリコリス、黒ずんだ野原を見渡してナズナは声を振り絞り立ち上がった。

 
「っ、立てた…?」
 
「この子の力がもう貴女に及んでいないからよ」

 
ヒガンは手を合わせ、指同士を交差させてこきりと鳴らしてみせた。

 
「ふふ…ちゃんと戻ってきたみたい」

 
何が、とは聞かなくても分かることだった。
腐った植物を下駄で踏みしめながら、ヒガンはナズナの元へ歩を進めた。
無垢で愛らしい顔の裏にあるものが恐ろしくて、ナズナは一歩退いた。

 
「……」

 
ナズナの目の前にばさり、と黒衣が揺れた。
白くて長い三つ編みも一緒に空に揺れては、重力に従う。
ヒガンはきょとんとして、それから物欲しそうな目で緑色の瞳を見つめた。

 
「まあ、カシったら…お姫様を守る騎士(ナイト)みたい」

 
「俺は、そういうのとは程遠いよ」

 
ただ、と後ろの存在を感じてカシは言葉を続ける。

 
「ナズナには手を出さないで欲しい」
 
「……ふふっ」

 
ヒガンは小さく笑って目を伏せた。
その黒い瞳には死んだ花達と薄墨色の装束が映りこむ。
ぼうやが、カシがわたしを見下ろしている。
もしかしたら、使えないだろうなんて思いながらも、わたしが何を考えているか見透かそうとしているかもしれない。

 
「ねえカシ。
どうしてさっきわたしがあなたに会ったとき、凄く嬉しくなったか分かる?」
 
「……」
 
「わたしね、昔、あなたに何度か会ったことがあるの。
あなたは覚えていないでしょうけど。
あなたは元々『記憶する力』を持っていないはずだから…あなたが生まれ来る前、前世にわたしが『催眠術』と交換したはずだから」
 
「ま、待って!」

 
ナズナは思わず声をあげた。
カシの横に出てきて袖を掴み、今しがた聞いたことを繰り返す。

 
「『記憶する力』…?
カシはただ単に記憶が無いだけじゃなかったの?」
 
「違うわ。
因みに、過去の記憶そのものを貰い受けたのはスズシロね」

 
「じゃ、じゃあ…記憶する力自体無いってことは…それが戻ってきてもこれからの記憶は残るけど、過去の記憶は戻らないってこと…?」
 
「そうなるわ」

 
カシの左腕の袖を掴んだまま、ナズナは固まるしかなかった。
こんなことって。
こんなことってあるのかと思いつめて、けれどナズナには引っかかる点があった。

 
「でも…カシは、私や、私と知り合ってから出会った人達のことは覚えてるし、その前のクスノさんやハッカさんのお姉さんだって覚えてる!」
 
「周期があるんだ」

 
間髪入れずに、カシはナズナに告げた。

 
「周期といっても、一年毎に消えていくとかそういうわけじゃなくて……少しずつ忘れていくこともあれば、急に今までの記憶が消えたりするんだ。
お菓子の作り方や生活の仕方は忘れないんだけど。
俺がつけてきた記録によれば、長くて二年、短くて一週間しか記憶がもたなかったらしい。
……言わなくてごめん」
 
「一週間って…何それ…」

 
私達が出会ってもうそれくらいになるじゃない。
一緒にいながら忘れられたかもしれない。
ぎゅっと袖を掴む手が強くなる。

 
「わたしの力は、わたしがどうにかしない限り消えることはないの。
だから肉体が死んだ場合、魂についていく。
人から人へ受け継がれていくのよ」

 
中には動物や植物に力をわけたこともあるけれど、とヒガンは付け足した。

 
「なら、その会ったときにどうして俺の、その前世の人の能力を消してくれなかった?」
 
「消したらわたしはあなたに記憶する力を返さなければならなかったんだもの」
 
「……は?」

 
ヒガンの言葉に、今まで俯いていたナズナも顔をあげた。


「返したくないからそのままにして…更にカシから『存在感』もとったっていうの…?
貴女は、今までといいリっくんのことといい、一体何がしたいの!?」

 
カシの袖から手を離して、ナズナは半歩ヒガンに詰め寄った。
パチパチ、と火の粉の上がる音が近くに聞こえる。
ヒガンは火の手がすぐ側まで迫ってきているのを感じながら、ナズナの潤んだ目にまっすぐ答えた。
 
 
 
 
「…人間に幸せになって欲しかった」
 
 
 
 
ヒガンの口から出た言葉は意外なものだった。

 
「それと、人間の輪の中に入りたかった」

 
ヒガンはぴょんっと前に跳んで、ナズナの手を掴んだ。
カシはそれを断ち切ろうとして――――

 
「大丈夫よ。
わたしがナズナの元に来た理由は、こういうお話をするためだったから」

 
――――カシは動くことが出来なかった。
まるで金縛りにあったみたいに。
体を動かそうとしても動かせない。
ヒガンはナズナの片手を小さな両手で挟んだ。
包み込もうとしたらしいが、手が小さくて叶わなかったらしい。

 
「ナズナの手、あったかいけど湿っているわ」
 
「あ…暑いからだよ!
それよりさっきの言葉の意味って」
 
「わたしは…自分でも何者か分からない。
気がついたら存在していたの。
神様にしては力が中途半端、妖怪にしては…ええ、妖怪なのかもしれないわね。
この姿は仮の姿なの」

 
可愛いでしょう? とヒガンはナズナに自賛する。

 
「わたしはいつも人間に焦がれていたわ。
特に、人間の喜んだ顔は大好きだった…見ているこちらも不思議な気分になったから。
私も一緒に喜んだり、喜ばせたいって思うようになってきたわ」

 
それである時ね、とヒガンは続ける。

 
「人間が品物と品物、今の時代はお金と品物を交換して生活していることを知ったの。
交換…、そうだわ、わたしも人間と交換すればいいのよ! って、その時気づいたの。
わたしの能力一つを人間の能力一つと交換するの。
わたしの能力を欲しがっている人とね」
 
「勿論、人間の中には悪い人もいることを知ってるから、自分のためでなくて、誰かのためになりたい、そんな人間を探したわ。
わたしと出会った人間は特別な力を持って幸せになる。
わたしも沢山の人間と、人間がいつもしているような交換こをすることで人間に近づいて…最後には本当の人間になって、一緒に笑って、一生を終えて、幸せになるの」
 
「交換…って、スズシロさんが話してくれた『欠ケモノ』や『セイサクシャ』の話と全然違う……」

 
わたしの話こそが事実で、『監視ビト』や『欠ケモノ』に植えつけられた話は虚実なのよ、とヒガンは話す。

 
「わたしの力は絶大だけれどとても不安定なものなの。
だから私自身でも上手く扱えないときがある……わたしと出会った記憶の消去、わたしの与えた能力の使い方を相手の脳に刷り込むのもとても難しいのよ。
その過程が完全でないから、わたしと関わった人間が増えて情報を共有するようになったから、そういった虚実も生まれたんでしょうね」

 
カシやスズシロが他の『欠ケモノ』『監視ビト』以上に何も知らないのは、わたしが能力を与えてからその後に人間としての能力を、記憶する力や記憶を貰ったせいにあるのかもしれないわ。
ヒガンの話を聞いていると、穴だらけのパズルが少しずつ埋められていくような気がした。
足りないピースを制限時間の限られた中、正確に、丁寧にはめていく。
パズルの製作者は文字通り『セイサクシャ』……ヒガンという者。

 
ヒガンはまだナズナの手を離さない。

 
「あなたの願いはとても純粋なもので、正直驚いた。
私以上に人間が大好きで、人間のこと考えてる。
だけど、やっぱり人間のこと分かってないよ……その方法じゃ、ヒガンも相手も幸せになれない」

 
そうみたいだわ、とヒガンは寂しく呟いた。

 
「色んな人を見ればそれは分かった。
それに、あなた達に『監視ビト』と呼ばれた人間を作ったのも間違いだと思ったわ……」
 
「そういえば…『監視ビト』とは交換も何もしていないんだよね…?」

 
ええ、とヒガンは答える。

 
「わたしの能力をもしかしたら悪用するかもしれない、人間としての能力が欠けたことによってその人が不自由するかもしれない……。
わたしは多くの人を見守ることができないから、代わりに私と交換こした人間と『近しい人』に、その人間を見守る力を特別に分け与えたの」

 
『欠ケモノ』と引き合う力。
力を持った人物を見分ける力。
そして、あなたの大切な人を守ってくれますように、あなたにも幸あれと願う、ヒガンの祈り。

 
「でも、『近しい人』…『監視ビト』のほとんどは私利私欲にまみれていった。
あそこで倒れているウルシと、あの女がいい例だわ」

 
私利私欲にまみれさせたのはわたしなんでしょうけどね、とヒガンは笑う。
本当に、特に人間の黒い部分について知らなさすぎた。

 
「ナズナ、わたし達の関係性についてまだ気になることはある?」
 
「……、えと、」
 
「『セイサクシャ』!」

 
ヒガンはナズナから目をそらした。

 
「…他にも言いたいことはありますけれど…。
まず、この…笛は、どうして不思議な力を宿してしまったの?」

 
スズシロが、ゼンマイ(こちらが『スズシロ』であるけれど)の首元からとったホイッスルを、その手のひらに乗せていた。
ナズナは、そういえば『欠ケモノ』は不思議なものを所持していたな、と思い出す。
カシは音叉。
ハッカは傘。
ゼンマイはホイッスル。
キウは分からないけれど、リコリスは自分以外の赤い花達が不思議なものに当たるのだろう。

 
ヒガンはナズナから手を離さずに答える。

 
「わたしは自分でも力を上手く扱いきれない。
だから、人間に能力を与えるとき、その人間が所持していたものにも力が及んでしまったのよ。
私と交換こしたときに何も持っていなければ、そういう不思議な品物は出てこないんだけれど」
 
「……もう一つよくて?」

 
スズシロの目つきがいっそう鋭くなる。
ぎゅっとホイッスルを握り締めて、スズシロの口は開かれた。

 
「シロから…『欠ケモノ』としての力が感じられなくなりましたの。
私は…貴女が実体化するために力をとったんだと思った。
でも、貴女はリコリスくんからも力を取り上げた。
……人間になりたかったのではないの?」

 
ふう、とヒガンは溜め息をつく。

 
「ええ、わたしは人間になりたいわ」

 
けれどね、とヒガンは言う。

 
「わたし…人間になる前に、もうすぐ消滅しそうなの。
力を失いすぎたせいか、もう潮時なのかは分からないけれど。
それでもわたしはまだ終わりたくない。
人間にもなれていないし、まだ…まだ消えるわけにはいかないの」

 
――あの人のために。

 
「だからね…」

 
びゅおう、と突然ヒガンの周りを風が取り巻いた。
ナズナは嫌な予感がしてで手を離そうとしたけれど、ヒガンにがっちり挟まれて叶わなかった。
それどころか、カシと同じように身動き一つ出来ない。

 
――あれ……!?

 
口も、いつの間にか動かせないでいた。
視線はヒガンに釘付けのままでいると、ヒガンはにこりと笑んだ。

 
「わたしね、カシと一緒にいるあなたが羨ましい」

 
がくん、とナズナの膝が地面についた。
カシやスズシロは目を見張る、けれど誰も声を出さない。
ここにいる者全員が、ナズナと同じ状態らしかった。

 
「昔のわたしだったら、きっとあなたを殺してしまったかもしれない」

 
昔とは、ビロウとの一件のことだろう。

 
「でもわたしは成長したわ…。
それに、わたしあなたのこと好きよ。
わたしには劣るけれど可愛いところとか、心の強いところとか、カシに前には無かった変化を与えてくれたところもね」

 
ナズナは座っている状態も苦しくて、地面に手をついた。
カシも立っているのが辛くなったのか、膝をついてしまう。
ナズナの視界の隅に、スズシロが傾くのが映りこんだ。
彼女は気合で起きていたようなものだ、もうこの力に、ヒガンがリコリスにしたみたいな力に気を保てなくなったのだろう。

 
「大丈夫、安心して? 
わたしは殺しはしないわ…。
ただ、わたしがまだこの世界にいられるだけの力を、あなたやこの町の人間の生命力、カシ達に至ってはわたしがあげた能力を全部回収しようとしているだけ」
 
――リっくんは…死んじゃったじゃない……っ。

 
ナズナの目の訴えに、ヒガンは当然というような風に答える。

 
「あの子は…本当のリコリスもそうだけれど、本体だって死んだようなものだった。
あの子は二百年以上前に咲いたバラ。
普通だったらとっくに枯れているの。
あの子の願いに嬉しくなって、力を交換したけれど…。
力が無くなれば、自然の理を破って動いていた命の営みも消える。
当然枯れるわ」
 
――願い…?

 
メラメラと、炎は黒くなった植物を飲み込んで勢力を拡大していた。
ヒガンは殺しはしないといったが、立てないぐらいに、これほど力を抜かれてはこの火から逃げるのは無理ではないか。
それに彼女は自分の力が不安定だといった。
もしかしたら、このまま生命力を全て抜き取られてしまうかもしれない。

 
「願いはそう、ある人の代わりにわたしの側にいたい、笑顔にさせてあげたい……だった。
半分は叶っていたと思うわ」

 
一瞬、ヒガンの顔が曇ったように見受けられた。
しかし、嘘だったようにヒガンの表情は晴れやかなものになる。

 
「あなた達から力を吸い取ったら、炎も消してあげる。
でも今…わたしも必死なの。
わたしはあなたを好きだけれど……それ以上に、生きたいの。
生きなければならないの。
もし、」

 
死なせてしまったら、ごめんなさいね。
 
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柊葉
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自己紹介:
某高校で文芸部に所属していました自称駄文クリエイター。今さっき命名(←)。オリキャラ好きーです。高校在学中に執筆していた「仮死にとらわれ」という作品の最終話をワケあって連載します、ネットサーフィンで辿り着いた方で1話から読みたいって方がいれば声かけて下さいませ。時々詩や日記や作品解説も。

※個人誌「仮死にとらわれ」は2008年度の作品です、年度の表記を怠ったのを今更ながら後悔;
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