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期間限定オフの小説最終話用ブログ(2008年7月より運営)
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全然書き進めていないんですが!もう!UPしてしまえ!
…感嘆符多めで見苦しくてすみませんorz

なんというか矛盾している所とか誤字だとか、そういうのは…
新しくまとめる時に一気に見直すことに致しました。
いや、でも普段も気をつけて書きますよ?<当たり前すぎる

それでは追記から。
男二人の会話だけってどうなんだ。
あと、個人誌一気+此処までの最終話読んでないとよく分からない内容かも。
いつもより若干長いです。だから余計よく分からないかもしれないorz

 
 
 
 *
 
 
 
 
 ハノウの頭痛薬の効果はてきめんだった。
驚くほどにすぐ効き、今は痛みも何もない。
場所を変えてリビングの椅子で落ち着いたカシを窺い、ハノウは話を切り出した。

 
「ビロウは、ハッカ様とお連れの動物達、それにナズナ様の弟様と一緒にこちらに向かっています」
 
「…不思議なメンツですね」

 
何故あの人の弟くんも?というカシの問いに、
貴方達が去った次の日に色々ありまして、とハノウは一つ一つ思い出すように話し続けた。
早朝ビロウの元にスズシロが訪れたこと。
スズシロに同士がいること。
スズシロ達が去った数時間後にハッカが自分の傘を求めにきたこと。
その後にセリハとクスノがハッカの傘を持ってやってきたこと。
しばしの閑談の中、ビロウが『セイサクシャ』に用事ができた――つまり会うと言い出したこと。
ハッカが同伴を申し出て、セリハもそれに続いたこと。
それに至る各々の理由――。
机の上に乗っていたコップに一回口をつけてから、なるほど、とカシは納得した。

 
「あの、クスノさんだけ何故帰ったんでしょうか?」
 
「さぁ…。
ビロウとは昔からの知り合いなだけに結構話されていたので、ビロウなら何か知っているかもしれませんが。
『欠ケモノ』『監視ビト』の輪廻の中にいる人が誰でも『セイサクシャ』に会いたいと思わないでしょうし…変に考えることでもないと思いますよ。
大体あんな変人に皆が皆ついていくとは限りません」

 
ビロウの研究、なんて使命が無ければワタシもすぐに国に帰って離れるつもりですからね、とハノウは淡々と言ってのけた。

 
「……。クスノさんは元気でしたか?」
 
「初対面なので、いつものクスノ様というのを知らないのですが…明るい表情をされた、お話好きで朗らかな方という印象を受けました。
快調なように思えましたよ」
 
「そうですか」
 
――それなら良かった。

 
安堵して、少し間を置いた後にカシは再び口を開いた。

 
「話はまだありますか?」
 
「……っ、ああ、もう大体お伝えして…」

 
考え事をしていたのだろうか、ハノウの反応が数秒遅れる。
ああ、とまだ何かあったような声を出した。

 
「カシさんに…ワタシ個人の見解を少し聞いて頂きたくて。
ナズナ様にはお話していないことですが」
 
「貴方の見解?」

 
はい、と言うなり白衣の右ポケットから古い灰色の手帳を取り出してカシに手渡す。
開くと細かい字の羅列が目に映った。

 
「読み進めて頂ければ分かるかと思いますが、それはビロウの生体研究に際して綴られたワタシの日記です。
日記というよりは記録の一部に近いですが」
 
「これ…貴方があの村に着いた日からつけているんですね」

 
最初のページに目を通したろうカシに、ハノウはええ、と答える。

 
「今日までずっと、これは続けているんですか?」
 
「そうですね。それはもうページが無くなってしまったので、別の手帳に書き続けていますが」
 
「そうでしょうね…」

 
十年以上もの記録をこれだけに綴られるわけがない。
早く、確実に内容を読んでいくカシに、ハノウは口を開いた。

 
「もっと詳しいレポートも大量にありますが、それを持ち運びするのは大変かさばるので止めました。
でもこの手帳だけでも資料として機能しますし…あることを話し出せるきっかけにもなる、と」

 
ページを捲るカシの手が止まる。

 
「ここ十年以上、ビロウを研究し、いらしてくる『欠ケモノ』『監視ビト』のお話を聞いていますと…最近『セイサクシャ』の力は弱まっているのではないかと思うのです」

 
ぺら、と再びページを捲り始めた。

 
「貴方の記録を読み進めていると、まだその見解に至るようなことは書いていませんが…」
 
「本当に、ここ最近の内に分かってきたことですからね。
その手帳にはビロウの状態が残念なことに良好なことや訪れた『欠ケモノ』『監視ビト』のことしか書いていないでしょう」

 
ん、と気にかかることがあったようにカシの手が止まり、ハノウの細い、ビロウと似た色の瞳を見据えた。

 
「彼は今…状態が良くないのでしょうか」
 
「……、それもあるから、『セイサクシャ』の力は弱まっているのでは、と思うのです」

 
りぃん、と外で虫の鳴く音が久しぶりに聞こえた気がした。
状態が良くない。
…あれで?
少しの時間しか共にしなかったカシはきょとんとせざるを得なかった。

 
「ビロウは村に人がいなくなってから、教会の長椅子で寝ることは多くなりましたが…それも時々気を失うのをごまかすカモフラージュなのではないかと疑い始めました。
まぁ、確かにビロウは女性とチーズケーキに並んで睡眠が大好きなのですが…」
 
「……はぁ」
 
「お客様がいらした時は、彼が倒れることはなかなかありません。
ビロウなりに努力しているのかもしれませんが。
ワタシの前でも、ですね」

 
そんなビロウが、ハッカ達や自分の前で倒れた。

 
「また倒れられたら困ると思って、出かけるのを止めようとしたのですが……止められなくて」
 
「彼が心配だからという理由もあって、貴方は此処にきたんですね?」

 
言われてみるとそうかもしれません、とハノウは溜め息をつく。
ハッカ様やセリハ様に迷惑をかけられては困りますからね、と付け足す口を見て、カシはハノウに悟られないように微笑んだ。何だかんだでこの人は…。
 
ジジ、と別の虫が鳴き始める。

 
「ビロウ達と途中で会えればもっと良かったんですがね。
会ってしまったのはスズシロ様達の乗っているとされる大きな車……」
 
「ああ、確か先の話だと、彼がこの町のことを話してしまって此処に来るかもしれない…ということでしたね」

 
それって、俺達危ないですよね。
そういうカシに、多少の時間稼ぎはしておいたのですけど、それでも早くこの町を出られるのに越したことはないでしょうとハノウは返す。

 
「時間稼ぎとは?」
 
「ナズナ様には驚かれたのですが…ちょっと、陰からタイヤを撃ってパンクさせました。
ワタシは普通の人間なのでスズシロ様やその同士様に感づかれてはいないかと」
 
「……。
トランクの重さはソレにも寄るものだったんですね」

 
割と冷静に返事をしてから、手帳に目線を落とした。
ハノウは教会に篭りきりの研究もさることながら行動力もある。
いや、行動力あってこその研究者だろうか。
読みふけるカシを見ていて、

 
「よかったら暫く持っていて構いませんよ」

 
と薦めてくれた。
こくり、と会釈するカシの反応を見てから再び話を切り出す。
それは、カシにとって思ってみなかったもので。
 
 
 
 
「一つ聞きたいのですが…カシ様、先程の頭痛は、『欠ケモノ』の性質に関係したものでは?」
 
 
 
 
緑色の目が見開かれる。
表情が固まったところを見ると図星なのだろうかとハノウは考えた。
カシと違ってずっと立ち続けたままのハノウをカシは見上げた。

 
「あれは〝そういう用〟の薬だったんですか?」

 
いえ、とハノウは即座に返答する。

 
「ただの頭痛薬です。
最近訪れる『欠ケモノ』の方の様子やビロウの異常を考えるとそうなのかなと思いまして。
ハッカ様には何の問題も見受けられませんでしたが。
…、『欠ケモノ』は、未だ未知の領域ですよ」

 
何度目かの夜の静寂が訪れる。
言おうか言うまいか悩んでいたのだろうか、カシは重く口を開いた。

 
「一緒にいる時間の長いあの人にも話していないことですが…。
貴方の見解は正しい。
俺は、記憶と存在が欠けている代わりに催眠術や人の心を見透かすことが出来る。
と、貴方も彼に聞いて知っているかもしれない。
彼は聞かなくても俺の能力を見破ったと、あの人に聞いたから…。
その記憶、なんですが」
 
 
 
 
記憶が欠けているというより〝記憶すること〟が欠けている……。
 
 
 
 
手帳に目を通しながらも、カシは話し続ける。

 
「物心ついたときから子供のときの記憶はごっそり無くて。
生活していて気付いたのは、一気に記憶が消えるのではなくて、少しずつ、古い記憶から消えていくことなんですね」
 
「ふむ…」
 
「その記憶が消える予兆として…頭痛が起こる。
だけど、この町に入ってから、それがおかしくて」
 
「おかしい…というと?」

 
少し黙って、カシは再び話した。

 
「記憶が…消えている気がしない。
だからといって、何かを思い出したわけでもない」

 
何処かのくせっ毛の青年は思い出したりしたわけだが。
手帳を読みながら、カシは寂しく笑った。

 
「『セイサクシャ』の力が弱まっているという話、俺のこの変化にも影響しているんですかね」
 
「もしかしたら、そうですね」
 
「……、そのうち、過去を思い出せたらいい」

 
今までの出来事、出会った人や、母や――父を。
あるページの文章をじっと見つめながら、そう思った。
 
隣の部屋の鳩時計が二回、静かな家に響いた。

 
「くれぐれも、あの人には内緒にしておいて下さい」
 
「ナズナ様、ですね。
心得てます、カシ様の話を聞くために、ナズナ様にこの話は持ち掛けなかったものですから」
 
「…そうですか」

 
それでもカシ様は全て話してくれたようには思えないんですよね、
とハノウはカシの左側で揺れる三つ編みを眺めた。
ふ、とカシは口を緩ませる。

 
「研究熱心も程々にして下さい。
行き過ぎたら俺は貴方に催眠を掛けかねない」
 
「根掘り葉掘り聞こうなんて思っていないので大丈夫です。
今宵はすみませんでした」

 
きっちり角度を保って謝罪するハノウにカシは目をぱちくりさせた。
何もそこまで謝られることではない。

 
「俺の方こそ迷惑かけてすみません。手帳、暫く預かります」

 
さてそろそろ休みますか、というハノウの声が聞こえて、
廊下でずっと二人の会話を立ち聞きしていた彼女は、内心慌てて静かに寝床に向かった。
彼女の心中は疑問符だらけで、度々聞こえる虫の声に穏やかに耳を傾けている場合ではなかった。
 
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柊葉
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自己紹介:
某高校で文芸部に所属していました自称駄文クリエイター。今さっき命名(←)。オリキャラ好きーです。高校在学中に執筆していた「仮死にとらわれ」という作品の最終話をワケあって連載します、ネットサーフィンで辿り着いた方で1話から読みたいって方がいれば声かけて下さいませ。時々詩や日記や作品解説も。

※個人誌「仮死にとらわれ」は2008年度の作品です、年度の表記を怠ったのを今更ながら後悔;
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