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期間限定オフの小説最終話用ブログ(2008年7月より運営)
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こんにちは、先週水曜に無事帰還して本免試験通過、無事免許を取得しました、ほっ。
世間はバレンタインデーですけれど学校の無い私は普通の休日を過ごしています…。
なので一応バレンタインなお話だけでも書いてみようと思いました。
前編となってますが後編が今日中に仕上がるか分かりません;
あと、カテゴリーを増やすのも面倒だったので「仮死」エクストラストーリーに入れました←

テーマは…ナズナはカシにチョコを渡せるのか! ってところですかね。



バレンタイン特別編―「菓子」にとらわれ
前編

 
二月十日。
最近出来たらしい大きなショッピングモール内を、茶髪三つ編みの少女――ナズナは一人、ゆっくりと歩いていた。
一つ一つの店舗に視線をやっては、時々中に立ち入り、どうしようと呟いては何も買わずに立ち去ること数回。
ショッピングモール内を一周して、ナズナはある売り場へ再び戻ってきた。
かごを手にとってナズナは決心したように歩き出す。
入り口には、可愛くラッピングされた袋、箱、箱、箱のオンパレードで、ナズナも目を惹かれたが、
思いを振り切り、食品売り場のお菓子と調味料のコーナーに向かった。
(きっと市販のものの方が美味しいかもしれないけど…)
通りすがりに見たマグカップやアクセサリーが頭を過ぎる。
(お菓子の腕じゃ勝てないから、モノでもいいかなと思ったけど…)
お菓子のコーナーに辿り付いたナズナは、板チョコ数枚を一気に掴んでかごに入れていった。
 
 
***
 
 
時を遡り、二月七日。
 
 
「もしもーし、ナズナ?」
「急にごめんハギちゃん、久しぶり」
「ああ、うちが潰れてからそれっきりだっけ。五ヵ月ぶり」
 
 
電話向こうで、中高の友人が笑んだのをナズナは聞いた。
ナズナは今、家に誰もいないにも関わらず少し声を落として質問する。
 
 
「あのさ…家、大丈夫?」
「ん、問題ないよ。あたし高校通えてるし。バイトしながらだけどね」
「すごっ、私も今新しいバイト先で働いてるけど…勉強と両立させるの辛そうだなぁ。
今高校では何やってるの?」
「国語は源氏でしょ、数学は新しく数Ⅲの教科書に入ったり……うーん毎日やばいね!
ナズナが戻って来てくれればちょっとは助かるのになぁ」
 
 
今更戻れないよとナズナは苦笑して、雑談はしばらく続いた。
ナズナがハギの家の事情を気にしたのは、友人だからという理由もあるが、元自営業の彼女の家で、しばらくアルバイトをしていたからでもあった。
学費の負担を祖父母にかけないために高校を中退したナズナを、ハギが気を使って一緒に働き始めたまではいいものの…。
そこそこ売れているパン屋だったが、駅前のライバル店との勝負に負け廃業、当然ナズナもクビ、それから時間の経たないうちにカシと出会ったのだった。
 
 
「学校に相談すれば、あたしみたいにバイトしながら通えるんだし、内緒でバイトしてる子もいるんだし…止める前にナズナもそうすればよかったんじゃないの?」
「高校は楽しかったけど、学費とかそういう現実的な問題以外に、私は何かしたかったんだよ。高校生っていう殻を破って……今思えば、この時代の私の行動って馬鹿だと思うけど」
「ナズナってあたしより賢いけどあたしより時々変な方向にいくよね」
「う…何も言えない……」
 
 
一通りの心配事や気になっていた話題を消化した後、ナズナはこの時期ならではの話題を振ってみた。
 
 
「あのさ、ハギちゃんは今年のバレンタイン誰かにあげたりとかするの?」
「んー、何か期待されてるみたいだから、今年も沢山作るかな?」
「えっとさ! 友達じゃなくて…異性の人とか…」
「男友達にもあげるよ?」
「いや、そっちの友達でもなくて…好きな人とかさっ」
 
 
好きな人ねぇ、と受話器越しに考え込むハギの姿が想像できる。
料理もできて運動神経もよくて、けれど浮いた話を一つも聞いたことがない彼女だが……。
 
 
「んじゃ、化学のハコベラ先生にでも作るかな」
「えっ、ハギちゃんあの先生好きだったんだ!?」
「まあねー、教え方下手だけど、生徒に一生懸命向き合ってる感じがするし」
「ナズナの思ってる『好き』とは違うけど、頑張って作ろうかなー」
 
 
なんか話したら燃えてきたよ! と張り切るハギにナズナは笑った。
 
 
「燃えてるハギちゃんにお願いしたいんだけど、お菓子作るとき私も一緒にいていい? というか、好きな人に贈るとびっきりのお菓子伝授して欲しいんだけど」
「ナズナ好きな人できたの? あのナズナがねぇ…ふーん…」
「ななな好きな人っていうかお世話になったっていうか…!!」
「うん、いいよ。お世話になった人の話も聞かせてくれたらね」
「まあ…ハギちゃんにならいいかな…」
 
 
じゃあ明日四時に、とお菓子作りの約束を取り付けてナズナは電話を切った。
ふう、と溜め息をついた直後にリビングのドアが開き、弟のセリハが怪訝そうな顔をしているのを見てぎょっとする。
 
 
「あ…セリハ家に帰ってたんだ」
「姉ちゃん電話長すぎ。~~ああ、ウチだけだよ今時こんなに電話で不便なのは」
 
 
姉弟揃って携帯を持っていないので、何か用がある時はリビングにただ一つの電話を使うしかないのだった。
退いた椅子に座って慣れたように番号を打つところを見て、ナズナはあっと声をあげた。
 
 
「またクスノさんの所でしょ。もうすぐ受験なのにセリハってば」
「本返すのに都合いい日聞くだけだし、受験の気も抜いてないし……ところでさ」
 
 
相手がまだ出ないらしく、セリハは(姉と少し視線をずらして)話した。
 
 
「姉ちゃんって今度のバレンタイン、カシさんに告」
「そそそそんなこと姉に聞かないでよね! セリハはどうなのよ、毎年一、二個は義理でチョコ貰ってくるみたいだけど今年は特に貰いたい相手がいるんじゃないの!?」
「べっ別にそんな相手いないし!! 誰それ構わずチョコを貰えるのは嬉しいけどさ」
「うわぁセリハ大人ぶってもかっこよくないよ?」
「…もしもし」
「姉ちゃんも素直になりなよ。オレからしてみればすでに出来てるように思うんだけど」
「っ!? いや、違う、私とカシはそういう枠組みじゃなくて…」
「枠組みってなんだよ。じゃあ何?」
「……もしもし、彼女と俺が何だって?」
「うわっカシさん!?!?」
「なっカシぃぃぃ!?!?」
 
 
騒がしさに呆れたような声が受話器の向こうから聞こえて、セリハはびくつき、ナズナもセリハの様子を見てびくついた。
 
 
「あ…いや……特に関係なくてですね……とりあえずうるさくてごめんなさい」
「きみ達姉弟は賑やかだよね、たまに」
 
 
セリハはカシに淡々と用件を述べた後、最後に一言、
 
 
「姉ちゃんと少し話す?」
 
 
と聞いてみた。
相手の返答はナズナに聞こえないが、セリハが受話器を差し出してきたのでナズナはそれを手に取った。
 
 
「ああカシ? 騒がしくってごめんね」
「きみ達らしいといえばらしいけど」
「『らしい』ってね…誰かさんの話題が上がらなければ騒がしくもならなかったんだけどな…」
「……、俺がどんな風に話題になったんだ?」
 
 
誰かさんは誰かさんであってね…! とナズナは必死に誤魔化した。
相手のカシはそれ以上引っ張らずに、早々に話題を切り替えた。
 
 
「きみ、来週空いてる? 弟くんにはさっき用件ついでに聞いたんだけど」
「来週? ええっと…」
 
 
電話の隣に置かれた卓上カレンダーを見て、ナズナは受話器を落としかけた。
 
 
「十四日は空いてるけど……」
「そっか、なら『アルビノ』に来るといい。いや、是非来て欲しいな」
「わ、私も行こうと思ってたし、丁度いいかなっ」
 
 
なら決まりだ、と向こう側のカシは喜んだ…ようにナズナは感じた。
適当な挨拶を済ませてナズナは電話を切った。
 
 
「あー…これは頑張らないと……」
 
 
セリハは電話を交代した後にいつの間にかいなくなっていた。
なので、ナズナの呟きには誰も反応しない。
数奇な運命に遭い、多少世間離れしている彼だが、カシはお菓子好きなのだ。
二月十四日がバレンタインだということは知っているに違いない。
カシがお菓子の絡んだイベントをないがしろにするわけがない!
と、ナズナは思った。
 
 
(きっとその日それは美味しいお菓子を振舞ってくれるんだろうな…そういう日じゃないんだけど……)
 
 
努力しないと自分のチョコが彼のお菓子に霞んでしまい渡せなくなる。
最近お菓子の腕を少しずつあげているナズナだが、今回こそ失敗はできないと思った。
旅中のかのチーズケーキのリベンジを十四日に!
そして今までのお礼と……告白という言葉が頭を過ぎったが、それは、ひとまず置いておこう。
好きとか嫌いとかそういう問題をはっきりさせたいわけではないのだから。
今のところは、多分。
 
 
***
 
 
翌日、運命の悪戯なのか、ハギはインフルエンザにかかってしまいお菓子作りは延期になってしまった。
 
 
「げほっ、ごめんナズナ…一週間外出禁止でさ、お菓子作り十四日よりも後になっちゃいそう」
「そんな謝らないで、安静にしててよ」
「うーん……でもなぁ、ナズナお世話になった人にとびっきりのお菓子あげたいんでしょ?
それは十四日に渡したほうがいいだろうしなぁ」
「私のことは気にしないでよ、それを言ったらハギちゃんだって十四日に渡したいだろうし」
「あたしは記念日とか気にしないタチだからいつでもいいんだけどね?」
 
 
そういえばそういう子だったなあ、とナズナは思い出した。
 
 
「一人で頑張ってみるのもいいと思うよ、昔よりお菓子作りやってるんだよね?」
「まあ、そうだけど…ハギちゃんみたく上手い人にも教わりたくて。
今回は何か負けられないの!」
「おおっ…えっとじゃあ、ナズナの知り合いにいないの? お菓子作りが得意な人」
「その得意な人に渡したいんだけど……あ」
「ん? どうしたの」
「知り合いにもう一人お菓子のスペシャリストがいたの思い出した! じゃあねハギちゃん、元気になったら一緒にお菓子作ろうね!」
 
 
ガチャン!
思わず勢いよく受話器を置いてしまったが気に留めず、ナズナは自分の手帳を引っ張り出すべく隣の自分の部屋に駆け込んだ。
お菓子といえばカシ、だけれどもう一人、いや二人いたじゃないの!
 
 
(でも…二人とも忙しいかも……)
 
 
手帳を掴んでナズナは考え、いや、とりあえずかけてみよう、とそろそろとリビングに歩いた。
和室で寛いでいた祖母とセリハは、ナズナの変化した足音に首を傾げた。
 
 
「セリくん、ナっちゃんは昨日から忙しないねぇ」
「色々あるんだよばぁちゃん」
 
 
***
 
 
二月十一日。
この日は祝日であり、とある製菓会社の社員も休日に当てはまった。
それは社員にあらず、社長や副社長にもしかり。
 
 
「バスで来てもちょっと遠いんだよね…」
 
 
レンガ造りの建物の多い、古き良き街並みの中に大層な屋敷。
最後に行ったのは、確かパーティーの時だったなあとナズナは感慨にふける。
あれからまだ四ヵ月しか経っていないので、懐かしむのは早いかもしれない。
 
 
「ナズナ様ですね?」
「えっと、……スズランさんとスズシロさんの会社の人ですか?」
「はい、私、荻野と申します。
社長と副社長より、ナズナ様をお迎えに上がるよう仰せ(つかまつ)りました」
 
 
バス停で荻野といった社員に一礼したあと、その荻野が乗ってきたであろう車を見てやはり、しかしそれでもナズナは驚いた。
 
 
「リムジンですよね…これ」
「ナズナ様はお客様ですから」
 
 
微笑む荻野にナズナは冷や汗を流した。
全く、凄い人達と関わりを持ったものだ。
 
 
***
 
 
ぎい、と重厚な扉を開けば別世界が広がる。
きっちり巻きつけていたマフラーやコートが煩わしい、暖炉の火は本当に暖かく。
シャンデリアもなんだか以前見たものとは少し形が違っているような?
きょろきょろして、空間の中央。
豪華な背景の中、決して霞まない煌きを放つドレスを纏ったスズランを見つけた。
 
 
「こんにちは、ナズナさん。お久しぶりですわ」
「スズランさんこんにちは。 …あの、一つ聞いてもいいですか」
「なんでしょう?」
 
 
荻野に上着を預からせ後に、スズランは不思議な顔をした。
 
 
「あの…今日ってパーティーか何かあるんですか? だったら私帰ります…」
「いえ、ありませんわ。どうして?」
「スズランさんドレス着てるじゃないですか」
「ああ、気にしないで。これは私の私服だから」
 
 
ふふっと笑うスズランに、ナズナはこれがお金持ちかと思わざるを得なかった。
確かにスズランに出会う度、普通の服は着ていなかったような。
ナズナがドレスを私服だと言ったらギャグで終わりそうだけど、この綺麗な人は本気(マジ)である。
 
 
「ナズナさんのために今日は完全なオフにしましたのよ?
私は余り役に立てないかもしれないけれど、お客様を置いてパーティーに出かける
瑠璃桜スズランではなくってよ」
「私なんかのために…ありがとうございます…」
「ナズナさん、自分を必要以上に卑下しないことですわ」
 
 
スズランお馴染みのセンスで肩を優しく叩かれ、
「それと、リラックスしてちょうだい?」
という言葉で、ナズナは一度深呼吸した。
 
 
「では、キッチンに行きましょうか」
「はいっ!」
 
 
ナズナはスズランの案内で客間の奥に進んだ。
一般人で屋敷の奥に、しかもキッチンを使わせてもらうのは私が初めてなんじゃないかとナズナは考える。
客間以外の場所もキレイだなぁ…なんて眺めながら歩いていると、目的の場所に辿りついた。
 
 
「あら…弟がいませんわ?」
「スズシロさんが? でもこんなに広いとどこかに隠れていそうな…って子供じゃなかったですね」
「記憶喪失の時は、確かに思考は幼かったですけれど…」
 
 
スズシロはナズナと背も変わらないし童顔だけれど、それでも一応二十歳である。
 
 
「わ、スズラン姉ぇにナズナちゃん、もう来てたんだ」
 
 
後ろから聞こえた声に二人は振り返った。
見れば白いくせっ毛の男の子、いや青年が瑠璃色の缶を持っている。
 
 
「シロ、それは…?」
「昨日できたばっかりの白いちょうちょ・改だよ。
満足できる出来栄えだったからさ、ナズナちゃんにプレゼントしようと思ってね!」
「プレゼントの品を先に食べていたら世話ないですわよ」
「ばれちゃったかぁ…いや、お菓子作りの前にプレゼントっていうか一緒にティータイムをしようかなって感じでね。
スズラン姉ぇもどう?」
「お菓子作りが先だと思いましてよ」
「あ、私はどちらでも構いませんけど……」
「ううん…お客様の依頼を後回しにしちゃいけないよね……よし、ナズナちゃん!」
 
 
スズシロは缶を片手に抱えて、もう片方の手でナズナの肩をがっしり掴んだ。
はい!? と素っ頓狂な声をあげたナズナににっこり微笑んだ。
 
 
「カシくんもびっくりのお菓子を一緒に作ろうっ!」
 
 
張り切るスズシロに、ナズナも十四日にかけたやる気を思い出して一緒になって声を出す。
 
 
「「おーっ!!」
 
 
拳を突き上げる両者を見て、スズランはまあ、と扇子を顎に添えた。
 
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HN:
柊葉
性別:
女性
自己紹介:
某高校で文芸部に所属していました自称駄文クリエイター。今さっき命名(←)。オリキャラ好きーです。高校在学中に執筆していた「仮死にとらわれ」という作品の最終話をワケあって連載します、ネットサーフィンで辿り着いた方で1話から読みたいって方がいれば声かけて下さいませ。時々詩や日記や作品解説も。

※個人誌「仮死にとらわれ」は2008年度の作品です、年度の表記を怠ったのを今更ながら後悔;
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