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期間限定オフの小説最終話用ブログ(2008年7月より運営)
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彼岸中にUPできればいいなと昨日思い立ちました。(…
ちょっと長いです。
が、次回は短いと思います。


※ネタバレ注意!
 1話から読みたいなって方は絶対読まないほうがいいです。
 いや、ほんとに。

 
 
 
 
 
 『セイサクシャ』はカシに駆け寄って、突然きゅっと抱きついた。
ナズナとリコリスは唖然とする。

 
「ぼうやが探しにきてくれたこと、わたし、すっごくすっごく嬉しいの!」
 
「…っ!?」

 
カシはどうしていいのか分からなさそうだ。
『セイサクシャ』はにっこりと笑ってカシの顔を見上げる。

 
「ぼうやったら随分と成長したのね。
背も高くなって、格好よくなって……ああ、そうだわ。
右腕を傷つけられていたのよね」

 
ぱっと黒服から手を離して、カシの右腕をとった。
聖母のように優しい笑みを浮かべて、自らの左頬にあてがう。

 
「わたしは神様じゃないから完全治癒なんてできないけれど」

 
カシの右腕がほの明るく発光し始める。
朝方だからか、月の光よりも弱々しい光だ。
右腕の輪郭がぼうっと黄色く薄まっている。

 
「〝痛み〟だけは完璧に取ってみせるわ」

 
静かに発光は収束した。
『セイサクシャ』の手から解放されると、先よりも腕はずっと軽く感じられた。

 
「本当に、痛くない…」
 
「あまり動かさない方がいいわ。
治ったわけではないから…毒はまだぼうやの腕を蝕んでいることに変わりないの」

 
昔だったら完璧に治すこともできたのだけれど、と『セイサクシャ』は残念そうに言う。

 
『セイサクシャ』はカシに背を向けて離れた。

 
「私のバラ。
そこにソファをこしらえてちょうだい?」
 
「任せて」

 
そう応えたのは、ナズナの隣の人物、リコリスだった。
左手の指をくるくると動かすと、赤い花が、それもまるで全体の赤い花が呼応するように大きく、うるさくざわめき始める。
ナズナ達の目と鼻の先に、いくつもの蔓がにゅるっと生えてきた。
それらは複雑に絡み合い、成長し、一つの大きな塊と化していく。

 
「うーん…」

 
不細工な塊にリコリスは首を傾げて、指でちょいちょいと修正を促してみる。
塊は一旦解けて、再び形を構成すべく絡まり始めた。
二人はその光景をただ眺めているしか出来ない。

 
蔓の動きが止んで、リコリスはにっこりとする。
背もたれ、腕置き完備。
ソファのような形にすることができたのだ。
仕上げとして、座るのに邪魔ではない位置に赤い花を咲かせてみせる。

 
「出来たよヒガン」
 
「ご苦労様」

 
『セイサクシャ』はソファに少し触ってから、ゆっくりと深く座った。

 
「さて、これでお話がしやすくなったわ。
ぼうやとお嬢ちゃん…ううん、カシとナズナは何を求めているのか言ってみなさい?」


上から物申す『セイサクシャ』に、ナズナとカシはアイコンタクトをとった。
何から。
何から言えばいいだろう。
重要なお願いははっきりしている。
けれど今までといい、この町に入ってからといい、分からないことだらけだ。
本題に入る前に、ここは一つずつ疑問を解消していくべきだろう。
あの、とナズナは口を開いた。

 
「まず…この町の現象は貴女の仕業?」
 
「そうとも言えるし、そうでないとも言えるわ」

 
首を傾げたナズナに、『セイサクシャ』はそうね、と言葉を続ける。

 
「わたしは『セイサクシャ』。
わたしの見込んだ子に素敵なプレゼントをあげるけど、そのプレゼントをどう使うかはその子次第。
事が起こる原因はわたしだろうけど、必ずしもわたしだけが原因じゃない」
 
「俺と同じ『欠ケモノ』がこの町に作用しているってことか」
 
「あの二人は『監視ビト』だからそれが分かってて…異常なものだから、火事を起こして対処しようとした…ってこと?」
 
「異常なもの?」

 
ナズナの隣から、静かで冷たい声が飛んできた。

 
「〝ボク達〟は何もしてなかった。
何もしてなかったのにアイツは〝ボク達〟を燃やした。
一昨日の火事で沢山の人間が泣き叫んでいたのをボクは知ってる。
火事だって異常だ!
異常なことを起こし、赤を忌み嫌うアイツや、アイツの仲間だって異常だ!
ボクだけが異常じゃないんだ!!」
 
「やめてちょうだい」

 
ナズナの腕をつかんで更にまくし立てようとしていたリコリスを、『セイサクシャ』が制す。
ソファに咲いた赤い花を一輪摘み取って、匂いを嗅ぎながら『セイサクシャ』は呟いた。

 
「わたしは大好きなあなたにアレと同等になってほしくないの。
それとあなた、今ナズナの腕を掴んでしまったら火傷を負わせてしまうわ」

 
呻き続けているウルシに目線を泳がせて、『セイサクシャ』は目を細めた。

 
「あ、あの、はっきりさせたいんだけど」

 
座り込んでいるので、少し顔を俯かせるだけでリコリスの赤い目と目が合う。

 
「リっくんが…さっきの言動といい、『セイサクシャ』と親しそうなことからして…『欠ケモノ』だよね」

 
最初は、本当のリっくんは死んじゃったとか、その時点では『欠ケモノ』じゃなくてユラくんみたいな不思議な状態の子なのかなって思ってたんだけど。
とカシに以前リコリスから聞いた内容を圧縮して、更に自分の考えていたことを端的に伝えた。

 
「それも、そうとも言えるしそうでないとも言えるわ。
正確には、リコリス自身は『欠ケモノ』とやらじゃないもの」

 
――『欠ケモノ』〝とやら〟……。

 
「そう、わたしがそういう言葉を作ったわけじゃないのよ。
人間達が勝手にそんな言葉を使い始めたのよ…名称をつけたがるわよね、人間って。
無いと不自由するからでしょうけど」

 
赤い花の短い茎をくるくると回しながら、カシの心を読み取ってみせた。
花をカシの方に向けて、にっこりと笑う。

 
「驚かないのね?私が貴方の心を読んだこと」
 
「……、逆にやられると変な気分だ」

 
きみは『セイサクシャ』であることを認めた。
神様じゃないとも言ったけど、と突きつけられた赤い花を見ながらカシは言う。

 
「きみは……常識にとらわれるような存在じゃない。
不思議な能力も沢山秘めているんだろう。
心を読むのは俺もできた。
元のきみができないはずは無いだろうから」
 
「だから驚かなかった。
異常がもう当たり前。
わたしったらもっと力を抑えていれば良かったわ……」

 
抑えていればわたしはまだ、と言いかけて思い出したようにナズナを見た。

 
「話が脱線してしまったわね。
その子…リコリスは本体の『欠ケモノ』の意識、時に、わたしの意識までも受け入れてくれた器の子」

 
リコリスはじっとナズナを見つめていた。

 
「器、なんて彼女は言うけどボクにとって『リコリス』は大切な友達なんだよ。
好きだった。
『リコリス』はボクに〝好き〟っていう気持ちも教えてくれた……」

 
わたしも学ぶことができたわ、と答えたあとに『セイサクシャ』は赤い花を髪に挿した。
 
「だから、『リコリス』を殺したアイツが余計憎い。
でも、ボクの能力は『監視ビト』には通用しない。
歯痒かったよ?
でも今はヒガンのお陰でしてやることができたんだ……」

 
リコリスは嬉しそうに微笑んだ。
違う、とナズナは思った。
こんなの、リっくんじゃない。
確かにこの子供は本当のリっくんではないけれど。

 
「それが、あなたの本性なの?」
 
「人間だっておんなじこと感じるでしょ?
好きな人や仲間が酷い目に遭わされたら復讐したくなるでしょ?」

 
赤い瞳はとても真っ直ぐにナズナを見つめている。

 
「もう分かってるだろうけど、ボクの本体はあの火の中にある…咲いてるんだ。
仲間も沢山いる。
ヒガンが抑えてくれてるけど雨が降らない限りまた燃え広がる。
ボクらは再び咲き誇ることができるけど、苦痛は忘れない。
彼女のお蔭で永遠に生き続けることができるけど、永遠に痛みも忘れないんだから」

 
ざわざわ、と足元に咲く赤い花がさざめく。
ナズナは大体分かってきた気がした。

 
「『欠ケモノ』は、人や動物だけかと思ってた。
あなたは、理由はよく知らないけど『欠ケモノ』の中でも特別強い『欠ケモノ』みたいだね…。
『セイサクシャ』と妙に親しいのも気になるけど」
 
「与えられたのは永遠に生きる(すべ)、欠けてしまったのは……何だろう?」


 
ナズナやカシの分析に、『セイサクシャ』はくすりと笑う。

 
「あなた達になら名前で呼ばれてもいいかもしれないわ。
ぼうやには是非呼んで欲しいくらいだけれど、ね」

 
それと、と『セイサクシャ』は続ける。

 
「ぼう…カシの言い方はぴったりよ。
永遠の命、って言うかと思ってたけれど、あなたはやっぱり鋭いわ」

 
賞賛するように、草花もさらさらと揺れる。
此処で暫く過ごして、会話も整理すると誰だって分かる。
鋭くは無い、とカシは『セイサクシャ』に返した。
ナズナも〝術〟という言い回しは理解できていた。

 
「スズシロさん達は赤い花を危険とみなしてた。
それは多分、赤い花が人の生気を吸ってるから、だよね。
それで自分の命を繋いでる。
今回は復讐とかそういうのもあって、いつも以上に吸収したせいで町中の人が倒れる結果になった…」

 
違う? とナズナは問いかける。
紅葉のような手を合わせて、『セイサクシャ』はパラパラと拍手した。
どうやら肯定されたらしい。
昨日、そして今日町中の人が倒れたまま、眠ったままなのも、今朝異常にふらついてしまっていたことも(もしかしたら昨日の立ちくらみも)、全てリコリス、いや、何処かに咲いている赤いバラのせいだった。
ツバキも、ハノウも皆起き上がらない。
特に、ハノウもこの現象の被害者になったことで、ナズナにはどうも不可解な点があった。

 
「どうして自分は動けるのか。
『監視ビト』は分かるとして、『欠ケモノ』にも何の影響もないのか。
疑問に思うのは分かるわ、ナズナ」

 
心を読まれることは承知でも、どきりとせずにはいられなかった。
眠ったままの人。
心を読む人。
まるで『カシ売りさん』の事件みたいだ。
ソファの腕置きに手を這わせて、『セイサクシャ』は口を開く。

 
「簡単なことよ。
あなた達もスズシロも必要な役者だから、私のバラに注意をしただけ。
それでも、ナズナは町の人と同じ普通の人だから、力の加減が難しかったようだけれど」

 
「スズシロさんは『監視ビト』じゃないの…?」
 
「……、違うわ。
私の言うスズシロは」

 
すっと指で示された先には、二人の男女が倒れている場所であり。
黒髪の女性ではなく、ナズナやカシの目には、白髪のくせっ毛の青年を指しているように見えた。



 
「偽の名前を植えつけられたゼンマイって子のことよ」



 
ウルシの、スズシロに向かい嘲って叫ぶ声が思い出された。
名を偽ったお嬢様。

 
「一体どうして…」
 
「わたしがもっと人間の黒い部分を知っておくべきだったのかもしれないわ。
『監視ビト』を担う人間は私利私欲にまみれたものばかり…。
純粋なあの子も利用されてしまう始末……」

 
ゆっくりと『セイサクシャ』は手を下ろした。
 
 
 
 
「…言…ないで……」
 
 
 
 
小さな声が空気を震わせた。
あら、と『セイサクシャ』は意外そうな声を出す。

 
「お目覚めかしら?」

 
ふらつきながら、女性、スズシロはその肢体を起こした。
腕も、頭にも相当なダメージを負っているはずなのに。
右腕を押さえながら、スズシロは鋭い目つきで『セイサクシャ』を睨んでいた。

 
「ウルシ…も、あなた達も…私達に干渉しないで…っ」
 
「…、貴女って、ずるい人なのか、強い人なのか分からないわ」
 
「私は…ずるくて弱い人間でしてよ…」

 
近くに倒れているゼンマイの傍に、更に寄る。
スズシロは腕を押さえている手を離して、ゼンマイの手を握った。

 
「こんな事態になるなんて思ってなかった…。
ゼンマイを…いえ、もう…シロをこんな目に遭わせるつもりじゃなかった……」

 
ゼンマイの胸元のホイッスルに、小さな水滴が落とされた。

 
――あの二人は、多分。

 
カシは、座り込んだままのナズナに目を落とす。

 
――同じ、なんだろうな。

 
「スズシロさん…」

 
本名は知らないけれど、そう呟く以外になんと言えばいいか分からなかったから。
自然とナズナの口からこぼれ出た。
スズシロは力無きゼンマイに、何を思い馳せているのか。

 
『セイサクシャ』だけが、スズシロの奥の、威力の弱まった炎を見つめていた。
 
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自己紹介:
某高校で文芸部に所属していました自称駄文クリエイター。今さっき命名(←)。オリキャラ好きーです。高校在学中に執筆していた「仮死にとらわれ」という作品の最終話をワケあって連載します、ネットサーフィンで辿り着いた方で1話から読みたいって方がいれば声かけて下さいませ。時々詩や日記や作品解説も。

※個人誌「仮死にとらわれ」は2008年度の作品です、年度の表記を怠ったのを今更ながら後悔;
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